7歳の彼が過去に戻り離婚直前の両親に見せた姿 小説『やさしさを忘れぬうちに』第1話全公開(5)

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泣いている小学生の男の子
「笑った姿を見せたかった」彼だったが…...(写真:beauty-box/PIXTA)
世界35カ国で翻訳、シリーズ320万部を突破している小説『コーヒーが冷めないうちに』。ハリウッドでも映像化され、世界中で話題のシリーズを東洋経済オンライン限定の試し読みとして配信。シリーズ最新作『やさしさを忘れぬうちに』の第1話「離婚した両親に会いにいく少年の話」の最終回をお届けします。
第1回:過去に戻れる喫茶店に来た7歳少年の切なる願い(3月27日配信)
第2回:7歳の少年が離婚前の両親と過ごした楽しい時間(3月28日配信)
第3回:7歳彼が離婚後2人とも再婚の両親を見て悟った事(3月29日配信)
第4回:7歳の彼が過去に戻り離婚前の両親に言いたい事(3月30日配信)

「泣いてない、泣いてないよ」

だが、いつまで経っても、桐山少年は手に持っているフォークをケーキに刺すことができないでいた。

「あれ?」

「どうしたの?」

葵が桐山少年の顔を覗き込む。桐山少年の手は動かないまま、柱時計の鐘の音が店内に鳴り響く。

ボーン

健二が桐山少年の顔を覗き込む。

「ユウキ? どうしてお前泣いてるんだ?」

「え?」

桐山少年は慌ててフォークを置いて、自分の涙袋辺りを触ってみた。

「え?」

確かに湿っている。いや、湿っている程度の涙ではない。あふれている。

「泣いてない、泣いてないよ」

桐山少年は必死にあふれてくる涙を拭うが、止めることはできない。

葵は、

「何がそんなに悲しいのよ」

と、桐山少年の涙を指で拭いながら自分も泣いていた。健二は困惑した表情で切り分けられたケージをじっと見つめていた。

「わああああああああああああああ……」

桐山少年は店内に響き渡るような声で泣きつづけた。去年のクリスマスで泣いた時よりも、大きな声で。

キッチンの奥からは、ミキが歌う「ジングルベル」が聞こえる。

桐山少年は、

「ごめんなさい、ごめんなさい」

と繰り返しながら、コーヒーを飲みほした。

「どいてくれる?」

桐山少年はトイレから戻って来た白いワンピースの女の声で気が付いた。席を入れ替わっても桐山少年は、

「また、泣いちゃった」

そう言って泣きつづけた。

そんな桐山少年を二美子が優しく抱きしめた。

「いいのよ。君ががんばる必要なんてないんだから。お父さんとお母さんが別れることになって辛かったんだもん。泣いていいのよ」

桐山少年の泣く声はさらに大きくなった。

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