二美子と流はレジ上の写真立てを見た。そこには笑顔の計の写真が飾られている。
計は流の妻で、ミキを産んだ直後にこの世を去った。天真爛漫、自由奔放で誰とでもすぐに仲良くなれる大きな瞳の明るい女性だった。
二美子は写真を眺めながら、さっきの数の発言を思い返していた。
(流さんに話して、下手に心配させるのもなんだし、ひとまず、聞かなかったことにしておくのがいいかもね)
二美子は一人で勝手に納得するようにうなづいた。
「あ、そうだ! 流さんならどうします?」
「何がスか?」
「もし、もしもですよ。計さんと別れることになって、それをミキちゃんに話したら、ミキちゃんが大泣きしちゃって、でも、ミキちゃんは流さんと計さんの幸せを願ってるから別れてほしくないとは言えないから笑ってて、でも、泣いてるんです。それでも、流さんは計さんと別れられますか?」
二美子は早口で一気に捲し立てた。
流は腕組みをしながら、二美子の発言を聞いていたが左眉をピクリと動かすと、
「うーん、何を言ってるか全然わかりません」
と、吐き捨てた。
「えー? だから……」
「でも、俺が別れるって言ってもあいつは別れないって言うでしょうね。あ、ミキが泣くとか泣かないに関係なく」
流の言葉に二美子の表情がスッと真顔になった。
「なんですか、それ? ノロケですか?」
「ノロケ? いや、俺は本当のことを言っただけで」
「それがノロケだって言ってるんです!」
「いや、だから」
流の顔がみるみる赤くなる。
レジ上の計はいつまでも嬉しそうに微笑んでいる。
「あの子は、私の家で暮らすことになりました
計が未来に行ったあの日から二年目の夏が始まろうとしていた。
★
後日、守田が喫茶店に一人で訪ねて来た。
その時、二美子は不在だったが、
「あの子は、私の家で暮らすことになりました。娘と健二くんだけではなく、二年前に妻を亡くした私のことも気にかけていたのだと思います」
と、カウンターの中で仕事をする数に告げた。
「優しい子ですね」
「ええ、本当に」
守田はそれだけ言うと、額の汗が引く間も無く喫茶店を後にした。
第一話 完
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