7歳の彼が過去に戻り離婚前の両親に言いたい事 小説『やさしさを忘れぬうちに』第1話全公開(4)

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コーヒーを飲む小学生の男の子
少年はついに過去へ(写真:Xeno/PIXTA)
世界35カ国で翻訳、シリーズ320万部を突破している小説『コーヒーが冷めないうちに』。ハリウッドでも映像化され、世界中で話題のシリーズを東洋経済オンライン限定の試し読みとして配信。シリーズ最新作『やさしさを忘れぬうちに』の第1話「離婚した両親に会いにいく少年の話」の第3回をお届けします。
第1回:過去に戻れる喫茶店に来た7歳少年の切なる願い(3月27日配信)
第2回:7歳の少年が離婚前の両親と過ごした楽しい時間(3月28日配信)
第3回:7歳彼が離婚後2人とも再婚の両親を見て悟った事(3月29日配信)

「コーヒーが冷めないうちに」

しばらくして、キッチンから数がトレイに銀のケトルと真っ白なコーヒーカップを乗せて戻ってきた。

「ルールは?」

「大丈夫だとは思うんですが、念のために確認してもらっていいですか?」

桐山少年の言葉に二美子が「うん、うん」と大きく頷いた。疑うわけではないが、万が一ということもある。

「かしこまりました」

数は、何十回、何百回も説明したであろう過去に戻るためのルールを一つずつ丁寧に説明した。桐山少年も数の説明に「わかりました。大丈夫です」と返す。特に、コーヒーは冷め切るまでに飲み干さなければならないというルールの説明の後には、

「冷め切るまでに飲む、冷め切るまでに飲む、冷め切るまでに飲む」

と、真剣な眼差しで繰り返した。

「よろしいですか?」

「はい」

準備は整った。あとは数がカップにコーヒーを注げば、桐山少年は湯気へと姿を変えて過去に戻ることになる。

「では」

そう言って、数が銀のケトルに手をかけた。

「あ! ちょっと待って!」

二美子が突然大声をあげた。だが、数は慌てない。ケトルに手をかけたまま、二美子に視線だけ向けて、次の言葉を待っている。

「数さん、アレ、アラーム入れてあげなくていいの?」

二美子はちょんちょんと何かをつまむような手つきを見せた。

この喫茶店では過去に戻った際、コーヒーが冷め切る前にアラームで知らせる道具がある。二美子は七歳の桐山少年のためにアラームを入れてあげたらどうかと言ったのだ。

だが、数は一言、

「きっと、大丈夫です」

と返し、視線を桐山少年へと向けたた。

「でも」

そして、二美子が再び止める間もなく、

「コーヒーが冷めないうちに」

と囁き、銀のケトルを持ち上げ、桐山少年の目の前に置かれたカップの上で傾けた。
コーヒーの満たされたカップから一筋の湯気が立ち上った。同時に桐山少年の体も湯気に変わる。

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