第2回:7歳の少年が離婚前の両親と過ごした楽しい時間(3月28日配信)
第3回:7歳彼が離婚後2人とも再婚の両親を見て悟った事(3月29日配信)
「コーヒーが冷めないうちに」
しばらくして、キッチンから数がトレイに銀のケトルと真っ白なコーヒーカップを乗せて戻ってきた。
「ルールは?」
「大丈夫だとは思うんですが、念のために確認してもらっていいですか?」
桐山少年の言葉に二美子が「うん、うん」と大きく頷いた。疑うわけではないが、万が一ということもある。
「かしこまりました」
数は、何十回、何百回も説明したであろう過去に戻るためのルールを一つずつ丁寧に説明した。桐山少年も数の説明に「わかりました。大丈夫です」と返す。特に、コーヒーは冷め切るまでに飲み干さなければならないというルールの説明の後には、
「冷め切るまでに飲む、冷め切るまでに飲む、冷め切るまでに飲む」
と、真剣な眼差しで繰り返した。
「よろしいですか?」
「はい」
準備は整った。あとは数がカップにコーヒーを注げば、桐山少年は湯気へと姿を変えて過去に戻ることになる。
「では」
そう言って、数が銀のケトルに手をかけた。
「あ! ちょっと待って!」
二美子が突然大声をあげた。だが、数は慌てない。ケトルに手をかけたまま、二美子に視線だけ向けて、次の言葉を待っている。
「数さん、アレ、アラーム入れてあげなくていいの?」
二美子はちょんちょんと何かをつまむような手つきを見せた。
この喫茶店では過去に戻った際、コーヒーが冷め切る前にアラームで知らせる道具がある。二美子は七歳の桐山少年のためにアラームを入れてあげたらどうかと言ったのだ。
だが、数は一言、
「きっと、大丈夫です」
と返し、視線を桐山少年へと向けたた。
「でも」
そして、二美子が再び止める間もなく、
「コーヒーが冷めないうちに」
と囁き、銀のケトルを持ち上げ、桐山少年の目の前に置かれたカップの上で傾けた。
コーヒーの満たされたカップから一筋の湯気が立ち上った。同時に桐山少年の体も湯気に変わる。
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