「これ、②って答えたら人格疑われそうだなぁ」
男のサングラスが菜々子たちの方に向けられる。幸に疑われるよりも、幸の身内であろう菜々子たちに疑われることを気にしているのだろう。質問の内容によって、こんなやりとりがくりかえされてきた。
すかさず、
「②なんですか?」
と、いじわるげに菜々子。
「いやー、結婚もまだなんで不倫とかよくわからないんですけど……」
「その年で?」
鋭いツッコミを入れたのは、沙紀である。歯に衣着せぬ物言いはいつものことだが、さすがに失礼だと思ったのだろう、菜々子が、
「先生っ……」
と、小声でたしなめた。
「縁がなくて……」
「いい人そうなのに」
「よく言われます」
悪びれることなく話を続ける沙紀も沙紀だが、サングラスの男ものらりくらりと当たり障りのない言葉を返す。
そんなやりとりにしびれを切らしたのか、幸が、
「どっち?」
と、答えを急かした。
「あ、ごめん、ごめん……うんとね、じゃ、①」
「先生は?」
幸は男が①を選んだ理由に興味を示すことはない。すぐさま、沙紀に矛先を向けた。
「私は②」
「え?」
沙紀の返答に、目を丸くして反応したのは菜々子である。沙紀が②を選ぶとは思ってもいなかったのだろう。
「隠し子のいるあなたに質問します」
「なに?」
「あ、いや、意外だなって……」
「なんで?」
「だって……」
菜々子は思ったことをそのまま口にすることができない。沙紀とは逆である。
「人格疑われてますよ」
菜々子が口ごもっていると、脇からサングラスの男がひょいと割り込んできた。
言いたいことはその通りだが、菜々子はあわてて、
「そんなんじゃないですけど……」
と、手をふった。
「なんでかって?」
菜々子の聞きたいことを沙紀が自分で言う。
「だって、そうじゃなきゃ不倫なんてしないでしょ?」
不倫自体はほめられたことではない。しかし、そのほめられたことではないことをわざわざしているのだから、明日世界が終わるなら、不倫相手を選ぶ、と言っている。もちろん、それが正解だというわけではない。あくまで沙紀個人の見解である。
しかし、言われた菜々子は、
「……あー、なるほど」
と、うなった。
「次、行きます」
「はい」
幸の元気な声が響き、サングラスの男がそれに応えた。
「第五十八問」
「はい」
「隠し子のいるあなたに質問します」
「これまたしょっぱい……」
男がこめかみをかく。
もし、明日世界が終わるとしたら、あなたはどちらの行動をとりますか?
① 最後だから夫、または妻に本当のことを言って自分だけすっきりする
②最後まで隠しとおして偽善者で終わる
「さ、どっち?」
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