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過去に戻れる喫茶店、通い詰めるお笑い芸人の男 小説「思い出が消えないうちに」第2話全公開(1)

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目を爛々と輝かせている玲司と、菜々子、沙紀との温度差は激しい。これが、今をときめくイケメンアイドルとかなら逆だったのかもしれないが……。

すると、菜々子が「でも」と、何かを思い出したかのようにつぶやき、

「ポロンドロンって、グランプリ優勝後、先月あたりから轟木さんが行方不明なんじゃなかったっけ?」

と、首をひねった。

瞬間、玲司も、

「あ……」

と、声を漏らした。

「はい」

「なにか訳があるのではないですか?」

ポロンドロンの林田だと認めることも含めて、男は蚊の鳴くような声でつぶやいた。

『思い出が消えないうちに』(サンマーク出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

サングラスで隠れてそのショックのほどはうかがい知れないが、さっきまでの陽気さは微塵も感じられなくなってしまった。玲司は玲司で、配慮に欠けた自分の行動を恥じて、小さくなっている。

ポロンドロン轟木の失踪が報じられたのは半月ほど前のことだった。しかし、ニュースで扱われたのはその後三日ほどで、あとは新たなニュースの話題にかき消されてしまった。マスコミは金銭トラブルの可能性を第一に取り上げ、芸人グランプリの優勝賞金一千万円を持って雲隠れしたのではないか、と騒いだりもした。

ただ、その真相については誰にもわからなかった。

「ここに来られたのには、なにか訳があるのではないですか?」

声をかけたのは数である。

この三日間、林田が何の目的もなくこの喫茶店に来ていたとは思えない。目的はきっと過去に戻るためだろう。その理由が相方の失踪と関係していることは容易に想像できた。
林田は観念したようにため息をつき、サングラスをとった。

(1月9日配信の次回に続く)

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