心の専門家ががん患者に伝える5つのメッセージ 「病は気から」はがんには当てはまらない

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■ほんとうにしたいことは何ですか?■

死という厳然たる真実と
正面から向き合っても色あせないのは、
愛情深い時間と、美しさに触れる体験だと、
私は思います。

死を強く意識するようになると、「今日1日を過ごせることが、そもそも当たり前のことではない」という考えに至ります。そして、残された貴重な時間をどのように過ごすかを一生懸命考えるようになります。他人の評判のようなものは意味がなくなりますし、お金は手段として役に立つことはあるでしょうが、それそのものに意味はありません。

そして、例えば大切な人とゆっくり過ごす、という気持ちになると思います。ほんとうにしたいことというのは、すごく近いところにあるのではないでしょうか。

無理しなくていい。自分にご褒美を

■もっと自分を許してあげる■

仕事や家事が以前のようにできないときでも、
「これではダメだ」と思うのではなく、
「これだけ大変な状況なのだから、
仕方がないよね」という具合に、
疲れている自分を許していただきたいと思います。

周りは「無理をしなくてもいいのに」と心底思っていても、休めない方も多くいらっしゃいます。そんなあなたをいちばん苦しめているのは、「弱音を吐いてはいけない、もっと頑張らなければダメだ」と厳しい言葉を投げかけてくる、もうひとりの自分かもしれません。

ときには、頑張っている自分へのご褒美も考えてみてください。いちばんはまず休むことかもしれませんし、家族と旅行を楽しまれるのも一案かもしれません。

■寄り添う側の人に知ってほしいこと■

寄り添うという言葉には、誤解が生じがちです。
「困っている人の気持ちを考えて、
その人が助かったと感じられるように接する」
としたほうがよいかもしれません。

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寄り添うことはなかなか難しいことです。その言葉の印象から、近い距離にいなければならないと思うかもしれませんが、そっとしておいてほしい人にとっては迷惑になります。

あなたが重苦しい状況に耐えられず、一方的に励ますというのも、ときに相手を傷つけることになります。

まずはその人がどんな気持ちでいるのだろうかと想像し、どうするとその人が助かるのだろうと、相手の立場に立って考える姿勢が大切です。そういうふうに私がいろいろと思いを巡らせていても、「先生には私の気持ちがわからない」としばしば言われてしまうことも多く、落ち込みます。それでもめげずに、また相手の立場に立って考えていく以外はないのです。

がんに罹った人は、険しい道のりを、誰かにささえられながら歩む人もいますし、誰にも頼らないようにして歯を食いしばって進む人もいます。
人を頼ることがさまざまな事情で簡単でない方もおられるでしょう。
そういう方にも、「患者さんたちとの共同作業で生まれた」これらの言葉が、こころのささえになることができたらよいのにな、とは清水氏の願いです。
清水 研 精神科医、医学博士

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しみず けん / Ken Shimizu

がん研有明病院腫瘍精神科部長、精神科医、医学博士

1971年生まれ。金沢大学卒業後、内科研修、一般精神科研修を経て、2003年より国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん医療に携わり、対話した患者・家族は4000人を超える。2020年より現職。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。著書に「もしも一年後、この世にいないとしたら(文響社)」、「がんで不安なあなたに読んでほしい(ビジネス社)」など。

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