「がんを告知された人」がその後迎える心境変化 喪失と向き合うには負の感情の役割が大切
私たちは健康であるとき、自分が病気になることを想像もせずに暮らしています。
そして、「もし、がんになったら」と考えると、「そのとき自分は冷静でいられるだろうか」「死ぬのが怖くてどうしようもなくなるのではないか」と不安に思ったりします。
私は精神腫瘍医としてがんの専門病院に勤めています。一貫して、がんに罹患(りかん)された人とそのご家族の診療を担当しています。毎年お会いする人の数は200人以上で今まで3500人以上の方のお話を伺ってきました。
中には非常に厳しい病状の方々もいらっしゃり、経験が浅かった頃は「自分だったらその状況は絶対に耐えられないだろうし、もしかしたらその人の精神は崩壊してしまうのではないか」と悲観的な想像をしていました。以前は、そのような方々にどのように声をかけたらよいのかわからず、戸惑ってばかりでした。
喪失の裏側で現実と向き合うプロセスが始まっていた
ですが、患者さんを見ていると、私の悲観的な想像はしばしば裏切られます。拙著『もしも一年後、この世にいないとしたら。』でも触れていますが、苦しみが簡単なものだというつもりは決してありませんが、少なくとも「その人の精神が崩壊した」と私が思ったことはありませんでした。
確かに、がん告知直後は思考停止になったり、病気になったことから目を背ける方向に心が動いたりすることが多いです。この段階がどのぐらい続くのかは人それぞれですが、「がんになったという事実は変えられないんだ」という諦めや絶望のような感覚が生まれたとき、その気持ちの裏側では現実と向き合っていくプロセスが始まります。
大きな恐れや悲しみから、子供のように泣きじゃくる人もいらっしゃいますが、そのような姿の奥にこそ、大きな喪失と必死に向き合おうとしている力強さを私は感じます。この、さまざまな喪失を認め、新たな現実と向き合う力を「レジリエンス」と言います。「レジリエンス」はもともと物理学などの用語で、日本語に訳すと「可塑性」という意味になり、「元に戻る」ことを表しています。
それが心理学の世界でも使われるようになり、「柳」のようなイメージの心のあり方を指すようになりました。
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