「がんを告知された人」がその後迎える心境変化 喪失と向き合うには負の感情の役割が大切

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そして、それぞれの人が苦しみながらも自らの心のおもむくままに過ごした先に、きっと目の前の患者さんはどこかにたどり着くのではないか。
初めてその患者さんに出会ったときは、その人の病気と向き合うプロセスがどのようなものになるのか、心がどこにたどり着くのか、ということはまったく見当がつきませんが、「きっと大丈夫」と思いながらお話を伺っております。

喪失と向き合うにはまずは「悲しむ」

突然のがん告知を受けると、それまでは当たり前であったこと、つまり「健康で平和な毎日が続く」と思っていた世界が突然変貌し、その人の目の前には様変わりした世界、つまり、さまざまな喪失や、死の予感を伴う現実が姿を現します。世界が様変わりしたことに対して、心理的な観点から2つの課題に取り組むことになります。

1つ目の課題は、「健康で平和な毎日が失われた」という喪失と向き合うことです。最初はその事実を認めたくないという気持ちが働くでしょうし、圧倒的な現実の前に茫然自失になるのも無理がないことです。悔しさがあふれ、果てしない悲しみが湧いてくることもあるでしょう。この喪失と向き合うという課題に取り組む際には、負の感情がとっても大切な役割を果たします。

悲しくて苦しい気持ちがあふれそうになっているのに、「こんなことはたいしたことではない」と自分に言い聞かせ、表面的には平静を装う人もいます。泣いてはいけない、弱みを見せてはいけないと思って生きてきた人は、負の感情をあらわにすることに抵抗もあるでしょうし、今までのやり方を急に変えることも怖いのかもしれません。

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しかし、つらい気持ちを押し込めても、それがなくなるわけではなく、心の奥底でくすぶり続けてしまいます。ですので、感情にふたをしている人には、「我慢しているのもしんどくありませんか。自分の心のメッセージを信じ、泣き叫びたがっている心を自由にしても大丈夫ですよ」と、徐々にお伝えするようにしています。

2つ目の課題とは、「様変わりした現実をどう過ごしたら、そこに意味を見いだせるのか」を考えることです。嵐のような悲しみや怒りは簡単にはやまないし、完全になくなることはないでしょうが、「残念ながらこの事実は変えられないんだ」という諦めや絶望に近い感覚が生まれたとき、2つ目の課題への取り組みが始まります。

1つ目の課題と2つ目の課題は同時に進行しますが、徐々に悲しみや怒りが弱まっていき、新しい人生を考えるという方向にシフトしていかれます。切り替わるのではなく、少しずつ、グラデーションのように移っていく感じです。

清水 研 精神科医、医学博士

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しみず けん / Ken Shimizu

がん研有明病院腫瘍精神科部長、精神科医、医学博士

1971年生まれ。金沢大学卒業後、内科研修、一般精神科研修を経て、2003年より国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん医療に携わり、対話した患者・家族は4000人を超える。2020年より現職。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。著書に「もしも一年後、この世にいないとしたら(文響社)」、「がんで不安なあなたに読んでほしい(ビジネス社)」など。

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