「31歳NHK記者の死」で見過ごされた3回のチャンス 彼女を追い詰めたのは長時間労働だけではない
――未和さんの過労死が公表されてから、NHKでは働き方改革が実施されて一般の社員は労働時間が厳しく管理されるようになりました。一方、2019年には40代の管理職が過労死していたこともわかりました。
恵美子さん:うちに来るNHKの同僚記者から「未和ちゃんのおかげでNHKも変わって、働きやすくなりました」「転勤先に、夫を帯同することもできるようになりました」と言われたことがあります。
未和が過労死したおかげでなんて、そんな話、聞きたくありません。未和の身に何が起きていたのか、それを知りたいのです。
働き方改革にしても、未和の過労死が都合よく使われて残業代がカットされたり、それが理由で転職した記者がいるという話も聞きます。
守さん:NHKは報道機関として真実を求めようとする職人と、役人・官僚の二面性を合わせ持つ組織といわれます。未和の過労死に対する対応は、役人・官僚組織としての悪い面をさらけ出しているように思います。
働き方改革で、一般職員の働き方はよくなったが、その分管理職にシワ寄せが増えているという話は聞いていたので、2019年10月に未和と同じ職場の管理職の方が亡くなったと知った時は「ひょっとしたら過労死ではないのか」と思いました。
3年後の今年9月に過労死と公表された時は「またか」と愕然としつつ、「やはりそうだったか」と感じました。
逃げずに直視してほしい
――今、最も強く訴えたいことは何でしょうか。
恵美子さん:未和は私の人生、夢、希望そのものでした。未和亡き後、現実を飲み込めないまま苦しみ、なぜあの時そばにいてやれなかったのかと、今でも自分を責め続けています。こんな悲しい思いを、他の人にはしてほしくありません。
なぜ未和があんな危険な働き方をしなければならなかったのか。どうして誰も助けようとしなかったのか。連絡がつかなくなった時、なぜ誰も動こうとしなかったのか。
親からしたら、娘を見殺しにされたようなものです。
今からでも遅くありません。調査・検証チームを作り、当時の職場の実態を明らかにしてほしいです。
守さん:未和の過労死に対して、組織としてきちんとしたけじめをつけていないことの延長線上に、第2の過労死があると私たちは考えています。
日本社会の根深い問題であり、今もなお毎年多くの犠牲者が出ている過労死が自分たちの足下で起きたなら、報道機関として何をすべきなのか、何ができるのか、逃げずに直視してほしい。NHK局内で、それをオープンに議論できる風土へと組織を変えていってほしいと願っています。
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