「31歳NHK記者の死」で見過ごされた3回のチャンス 彼女を追い詰めたのは長時間労働だけではない

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佐戸未和さんの遺影の前で語る母親の佐戸恵美子さん(写真左)と父親の守さん(右)(写真:記者撮影)
当時31歳だったNHK記者が過労死してから、2023年で10年が経つ。だが、遺された両親は今なお苦しんでいる。その理由の1つは、過労死するまでの働き方や職場環境をめぐる真相がいまだ闇に包まれているからだ。
2013年7月にうっ血性心不全で亡くなったのは、NHK首都圏放送センター(現首都圏局)に勤務していた佐戸未和さん。参議院選挙の取材を終えた3日後に音信不通となり、一人暮らしの部屋でピンク色の業務用携帯を握りしめたまま倒れていたところを発見された。
亡くなる前の残業時間は、6月が188時間、7月は209時間。80時間の過労死ラインを大きく上回っており、2014年5月には東京労働局渋谷労働基準監督署から過労死として労災認定が降りた。
その後NHKは働き方改革を進めてきたものの、2019年には未和さんとまったく同じ職場で40代の男性管理職が過労死していたことも今年9月に公表された。
未和さんの死の教訓が生かされぬ中、両親である佐戸守さん、恵美子さんが今訴えたいこととは。インタビュー後編をお届けする(→前編はこちら

【情報提供をお願いします】東洋経済では、過労死を招いたNHKの働き方について情報提供を募っています。ご協力いただける方は、こちらへ。

特ダネ主義と対立する立場に

――亡くなる前、未和さんは選挙取材で過労死ラインを大幅に上回る長時間労働をしていました。職場の人間関係にも、何か問題があったのでしょうか。

守さん:正確な時期はわかりませんが、未和が働いていた都庁クラブは、首都圏センターの上層部から「『首都圏ネットワーク』の番組枠を埋めるための出稿数が少ない」と叱責され、会議が開かれたそうです。

そこで取材方針をめぐる侃々諤々の議論があり、都庁クラブは特ダネ路線でいくのか、それとも記者リポート重視の路線でいくのかで意見が割れ、最後は一人ひとり賛否を求められたそうです。

1つのテーマを深く掘り下げたリポートがしたい未和は、特ダネ路線を主張するキャップと対立する立場になってしまいました。その会議を境に、キャップの未和への態度は豹変したという話を同僚から聞いています。

それ以来、原稿を没にされたり、出張申請が却下されるようなこともあったという情報もありました。

普段は親に弱音など吐く子ではなかったのですが、亡くなる1年ほど前、都庁の近くで家内と未和が食事した際、「職場でキャップと2人になるのが怖い」、「自分は評価されていないみたい」と漏らしたようです。婚約者にも「(キャップから)激しく叱責された」とメールを送っていました。

亡くなってから、NHKの幹部に職場の人間関係に問題はなかったのかを問い質したのですが、「未和さんは誰からも愛される人で、絶対にそんなことはありません」というばかりでした。

確かに人の恨みを買うような子ではありませんでしたが、ハードな仕事の中では皆、自分のことで精一杯で、お互い余裕がなくなるだろうし、狭い職場の中でどんな感情のもつれがあったのか、実態はわかりません。

そんな張り詰めた環境下で、未和が選挙取材で土日も休めず毎日深夜1時、2時まで働いていても、未和がどこで何をし、どれくらいの時間働いているのか、誰も関心を向けていない。

「記者は個人事業主のようなものだ」と私たちの前で言い放った管理職もいますが、この感覚が職場の風通しを悪くし、チームワークの欠如につながっていたのだと思います。

未和の上司に「未和1人に負担がかかりすぎてはいなかったか」と聞いたことがあります。すると「皆同じように大変でした」というだけでした。

恵美子さん:未和は社会部に行きたがっていました。教育や福祉に関心があって、がん患者やダウン症の子どもなど、声なき声に光を当てるような仕事をしたかった。これは就職活動でNHKを志望した頃から願っていることでした。

佐戸未和さんが入社試験の際にNHKに提出したエントリーシート。NHKを志望した理由には「センセーショナルに報道するのではなく、何が報道すべきことで何が報道すべきことではないかが考えられている」とある(写真:記者撮影)

ただ、当時のキャップ以下は特ダネ主義でほかの男性記者も追随していましたので、未和は孤立して、つらい目にあっていたのかもしれません。

そのまま選挙戦へと突入し、心も体も限界にきていたのでしょう。なぜあの時、未和のそばにいてやれなかったのか。今も自分を責め続けています。

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