「人類滅亡」今後数十年の取り組みが鍵となる理由 私たちホモ・サピエンスが握る「人新世」の命運

✎ 1〜 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 6
拡大
縮小

しかし地質学者にとってはあくまで科学的な手順から導き出されたこの名が、一般の多くの人にとっては、自分たちが直面する由々しい変化をありありと言い表したものになっている。

人類は今や、地球全体に影響を及ぼすほどの強大な勢力に成長した。現に、人新世は地質時代の中で例外的に短い時代となり、人類文明の消滅によって幕を閉じる可能性すらある。

別の可能性もある。人新世の幕開けは、人類と地球の新しい持続可能な関係の始まりになるかもしれない。人類が自然と対立するのではなく、自然と協力することを覚える時代にもなりうる。

人類が地球全体のよき管理者になるとともに、生物多様性を取り戻すのに自然の驚異的な回復力に頼るようになることで、もはや自然のものと人工のものとのあいだに大きな差がなくなる時代にもなりうる。

どちらの可能性が現実になるかは、わたしたちしだいだ。人類は頭がいいのに、好戦的でもある。人類の歴史は覇権を握ろうとする国家間の戦争や紛争の話で埋め尽くされている。

しかしこれからはそのようなことを続けるわけにはいかない。今の世界は地球規模の危機に直面している。世界の国々が互いの違いに目をつぶって、手を握らなければ、この危機には対処できない。

世界各国が協力したクジラの保護

じつは、わたしたちには過去にそういうことをやり遂げた実績がある。1986年、世界の捕鯨国の代表者が集まって話し合い、あらゆる種類のクジラを殺すのをやめなければ、世にもすばらしい生き物を絶滅に追いやることになるという結論に達した。

各国の代表者の中には、当時すでに経済的に採算が取れないほど、クジラの数が減っていたことから、捕鯨の停止に合意した代表もいたかもしれない。

しかし活動家や科学者たちの訴えにもとづいてそうした代表がいたのも確かだ。決定は全会一致ではなかったし、いまだに議論は続いている。

しかし1994年には、南極海の5000万平方キロメートルが鯨類禁漁区に指定された。現在、そのような規制の結果、クジラの数は今の人々が生まれてこのかた見たことがないほどにまで増えた。おかげで、海の複雑な仕組みを支えるクジラの重要な働きもかなり本来の姿に復してきた。

次ページ国境を越えた協力も不可能ではない
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT