老化にも影響!「頭の中のひとりごと」危険な正体 「考えすぎる人」は人生を台無しにしてしまう

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これは完全に理にかなっていた。ただし、まもなくわかったことなのだが、多くの人にとっては完全に間違っていたのである。

近年、多くの堅実で新たな研究によって、苦痛を感じているときに内省を実行しても有害無益であることが明らかになっている。

それは、仕事のパフォーマンスを低下させ、適切な判断を下す能力を阻害し、人間関係に悪影響を及ぼす。暴力や攻撃性を助長したり、さまざまな精神疾患を引き起こしたり、体調悪化のリスクを高めたりすることもある。

精神を思考や感情に関わらせる方法を誤ると、プロのアスリートがキャリアを費やして身につけた技術を失ってしまうこともある。さもなくば、理性的で思いやりのある人びとが、不合理であるばかりか、道徳にもとる決断を下す可能性さえある。

現実の世界でもソーシャルメディアの世界でも、友人が去ってしまうかもしれない。ロマンチックな関係が、安息の場から戦場へと変わってしまうこともある。

さらには、私たちの外見においても体内のDNA配列においても、老化が早まりかねない。

要するに、思考によって思考から救われないことがあまりにも多い。それどころか、思考は油断ならない何かを生み出しているのだ。

それが、チャッター(頭の中のしゃべり声)である。

「内なるコーチ」が「内なる批判者」に

チャッターを構成するのは、「循環するネガティブな思考と感情」だ。こうした思考や感情は、内省という素晴らしい能力を祝福ではなく呪いに変えてしまう。私たちの行動、意思決定、人間関係、幸福、健康を危険にさらすのだ。

私たちは仕事での失敗や恋人との諍いについて考え、最後には否定的な感情で頭の中がいっぱいになってしまう。それから、再びそのことを考える。さらにまたしても考える。

私たちは内省によって「内なるコーチ」に助けを求めようとするが、それに代わって「内なる批判者」に出くわすのだ。

問題は、言うまでもなく、それはなぜかということだ。苦しんでいるときに「内面へ向かい」、現状について考えようとする人びとの試みが、時に成功し、時に失敗するのはなぜだろうか?

同じく重要なことだが、内省の能力が暴走していると気づいたとき、それを元に戻すにはどうすればいいだろうか?

私は自分のキャリアを通じてこれらの問題について考察してきた。そして、私たちが自分自身と交わす会話にその答えがあることを学んだのである。

(翻訳:鬼澤忍)

イーサン・クロス 心理学者/ミシガン大学教授

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Ethan Kross, PhD

意識する心のコントロールに関する世界的な第一人者。ミシガン大学心理学部およびロス・スクール・オブ・ビジネスの受賞歴のある教授であり、感情と自制研究所の所長。ホワイトハウスの政策議論にも参加し、『CBSイブニングニュース』や『グッド・モーニング・アメリカ』などの番組で、研究に関するインタビューを受けている。その先駆的な研究は『ニューヨーク・タイムズ』、『ニューヨーカー』、『ウォール・ストリート・ジャーナル』、『USAトゥデイ』などで取り上げられている。ペンシルヴェニア大学で修士号を、コロンビア大学で博士号を取得。本書が初の著書。

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