私たちが部下や同僚の「活躍」を素直に喜べない訳 日本の会社にチャレンジする人が現れないなぜ

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では、まず「正の報酬」を取りあげてみよう。

日本企業では個人の仕事の分担が明確でなく、課や係、あるいは上司と部下といった集団単位で行う仕事が多いので、日常的に他人から仕事で助けられたり、必要な情報をもらったりする。仕事以外でも一緒に食事をとったり、困ったときに相談に乗ってもらったりすることがある。ほめられる、認められる、感謝されるのはもちろん、何気ない気配りや雑談も大切な社会的報酬だ。

さらに一方的に「もらう」だけでなく、他人を助けたり、周りの人の役に立ったりすることで自分も充実感、満足感が得られる。それらが社会的欲求や承認欲求を満たしてくれるのである。

問題は仕事でチャレンジすること、がんばることが、それらの社会的報酬を獲得するうえでプラスになるとはかぎらないという事実。いや、むしろマイナスになる場合が多いことである。

正直、チャレンジされると迷惑!?

チャレンジすることが周囲との人間関係のうえでマイナスになる理由。それは、周囲の人にとって「迷惑」になるからだ。繰り返し述べているように、日本の会社は共同体型組織である。そのため1人ひとりの分担が明確になっておらず、上から下まで全体が相互依存の関係にある。それが「迷惑」をもたらすのである。

組織のトップから見ていこう。大企業の社長は大半が、いわゆるサラリーマン経営者である。任期を終えて退任するときの挨拶で、枕詞のように「大過なく」という言葉が添えられるのは、彼らがいかに無難に任期を全うしようと考えているかを物語っている。

それは日本企業の性格にも由来する。経営学では昔から「企業はだれのものか」という論争があるが、株式会社である以上、制度的には会社は出資者である株主のものということになる。少なくともアメリカなどではそれが常識だ。日本企業も近年は株主重視の経営に舵を切るところが増えてきたが、歴史的に日本企業は株主の利益よりも組織の存続や社員(従業員)の利益を重視する傾向があった。

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