私たちが部下や同僚の「活躍」を素直に喜べない訳 日本の会社にチャレンジする人が現れないなぜ

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そこで「どちらかというと周りとの調和を大事にする人」を選択した人に、その理由を述べてもらった。すると、つぎのような回答が返ってきた。

「もめ事を起こしたくないから」(35件)
 「面倒を起こしたくないから」(17件)
 「楽だから」(16件)
 「何となく」(33件)

そのほか「仕事がやりやすい」「付き合いやすい」「楽しく仕事をしたい」「巻き込まれたくない」「空気を乱されたくない」「ストレスを感じない」「付き合いやすい」という回答もそれぞれ複数、計33件あった。

これらの回答は、いずれも個人的な損得や感情を表していると解釈できよう。要するに回答した456人のうち約3割(29.4%)に当たる134人が、個人的な理由からチャレンジする人を歓迎していないわけである。そして、その大半が相手から受ける迷惑を理由にあげていることがわかる。

会社にとってはチャレンジングな人材が必要だが、同僚としてはあまり歓迎しない。いわゆる「総論賛成、各論反対」なのだ。なお、この「総論賛成、各論反対」という本音こそ日本の組織を語るうえで重要な意味を持っている。

サボったらダメだが、がんばりすぎてもダメ

職場の人間関係に関する有名な古典的研究として知られているのが、「ホーソン研究」「ホーソン実験」である。アメリカのウェスタン・エレクトリック社ホーソ工場で行われたこの研究(実験)では、職場の中に制度として定められた公式組織とは別に仲間同士の非公式な組織が存在し、その中で形成される暗黙の規範が生産性を左右していることが明らかになった。

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その規範とは、サボってはいけないが、がんばりすぎてもいけないというものだ。だれかがサボると、ほかの仲間の足を引っ張るので迷惑をかける。逆にがんばりすぎても、ほかの人が同じようにがんばらなければならなくなるので迷惑になる。したがってサボりもがんばりすぎもしない、「そこそこ」の働き方が要求されるわけである。

これはアメリカで行われた研究だが、仕事を進めるうえでも、イデオロギーの面でもいっそう集団主義的な性格が強い日本企業では、暗黙の規範による束縛はいっそう強いと想像される。

太田 肇 同志社大学名誉教授

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おおた はじめ / Hajime Ohta

兵庫県出身。同志社大学名誉教授。経済学博士。主な研究分野は個人を生かす組織・社会づくり。日本における組織論の第一人者として著作のほか、働き方改革や社員のモチベーションアップなどに関するマスコミでの発言、講演なども積極的にこなす。また猫との暮らしがNHKで紹介されるなど、愛猫家としても知られる。著書は、『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』(集英社新書)、『「自営型」で働く時代』(プレジデント社)、『何もしないほうが得な日本』(PHP新書)、『日本人の承認欲求』(新潮新書)など40冊以上あり、大学入試問題などに頻出している。『プロフェッショナルと組織』(同文館出版)で組織学会高宮賞、『仕事人と組織』(有斐閣)で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。

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