ソウル雑踏事故で多数、「圧死」から命を守れるか 法医学の医師に聞くメカニズムと救命法

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「おそらく亡くなった方々は、主に上半身、胸を中心とした部分がまったく動かせなかったのではないかと推測されます。そのため今回の事件のような窒息が起きたのだと思います」

そしてもう一つ、圧迫は心臓にも影響を及ぼすという。

「胸が圧迫されると全身を循環している血液が心臓に戻りにくくなります。心臓に必要な酸素と栄養が供給されなくなるため、心停止が起こります」

圧死に関しては、こんなこともわかっている。「50kg程度でもずっと胸の上に乗ったままでいると、30分後には呼吸困難による生命の危険が生じて、70~80分で死にいたる」というデータだ。50kgというと身長にもよるが、成人女性の体重ぐらいだ。それだけの重さでも人を死に至らしめてしまう。

圧死というと、2001年に兵庫県明石市で発生した花火大会の歩道橋事故を思い出す人もいるかもしれない。このときは11人が圧死などによって死亡し、約180人が負傷した。

圧死は人が乗って起こるケースだけではないと、一杉さんは言う。

「1995年の阪神淡路大地震では、家屋や家具の倒壊によって圧死した方がかなりいらっしゃいました。亡くなった約5500人のうち、77%にあたる4224人が圧死でした。このほかにも、2005年のJR福知山脱線事故では、約100人が亡くなりましたが、このうち先頭車両では圧死が多かったといわれています」

ほかにも、労災事故でも圧死のケースは珍しくなく、決して稀なものではないのだ。

最も大きなきっかけは「転倒」

話を、“人が乗ったときの圧死”に戻す。

一杉さんによると、今回の事故にしろ、明石の事故にしろ、ある“きっかけとなる状況”が惨事を招いたという。最も大きなきっかけが「転倒」だ。どんなに人がぎゅうぎゅうになっていても、転ばなければ事故は免れることができる。

「もし今回、多くの方がお酒をかなり飲まれていたとしたら、足もとがふらついているので、転倒のリスクが高くなっていたと考えられます。もう一つ、人から押されるという行為も、バランスが崩れるので転倒リスクとなりうる」

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