学力向上に繋がらない「無意味な宿題」諸悪の根源 かつて塾で大失敗したからこそわかる問題点

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こうした失敗を体験した筆者は、宿題のあり方を変更し、次のような授業形態に変えました。その結果、驚くような現象が起こりました。

①「講義」
②「演習」
③「記憶」
④「さらにレベルを上げたい人にはプリント」

① 「講義」

これまで同様の講義ですが、1トピック15分を超えないように設定しました。なぜなら、集中力がもたないからです。ちょうどテレビが15分おきにCMを入れるような感覚です。

② 「演習」

こちらも従来と変わりませんが、重要な項目から優先度に従って行います。答え合わせは子ども自身で行います。早くできる子はさらに先に進めるように、黒板に「P10→P12→P14の3番」というように進行手順を書いておきます。先生はその間、机間を巡視し、手が止まっている子の個別指導を行います。

これによって、早く解ける子は先に発展的問題を進められ、遅い子は基礎を積み上げることができます。つまり、集団授業で同じ単元を学習していても、公平に各自のレベルに応じて伸ばすことができます。

③ 「記憶」

通常は授業時間中に、記憶はさせません。「テストするから家で覚えてくるように」と言うのが一般的です。

しかし、この重要な部分を子どもに丸投げすると、やってくる子とやってこない子に分かれ、学力格差が生まれます。ですから、基礎はその場で記憶させます。記憶の確認ができたら、授業は終了とします。

④ 「さらにレベルを上げたい人にはプリント」

習得した状態で授業を終えるため、宿題は不要にしています。

しかし、ここからが重要な話なのですが、「さらに今日のレベルを上げたい人にはプリントがあって、これをやると2段階ぐらいはバージョンアップできるけど、どうする?」と子どもたちに聞きます。すると、多くの子どもたちは、「プリントください」と言ってきます。

子どもたちに自らすすんで学ぶ意欲が

これは、いわゆる“宿題”です。しかし、従来の宿題は「やりたくないという後ろ向きの気持ちで仕方なしに行うもの」であったのが、「自らやりたいもの」に変わっている点が大きく異なります。

内容は同じでも、“宿題”に向けての心構えが、180度逆になったということです。

自主的、前向きに取り組んだ宿題は効果を発揮するはずです。仮に、このプリントをやらなくても、基礎事項は授業内で記憶段階まで終了しているため、落ちこぼれが出ることはありません。さらに、宿題をやってこない子を呼び出して説教する不毛な時間も必要なくなります。

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このスタイルに授業を変更してから、「早く次の授業を受けたい」という通常では考えられないことを言う子どもたちも出てきました。そして、子どもたちは生き生きとし、学力がぐんぐん伸びる子が何人も出たのです。これは驚きでした。

宿題、それ自体に意味はあると思います。しかし、大切なことは、宿題をただ出せばいいというものではなく、子どもたちが「どのような心の状態で取り組むのか」、ここが最大のポイントだと思っています。

以上、参考になれば幸いです。

石田 勝紀 教育デザインラボ代表理事、教育評論家

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いしだ かつのり / Katsunori Ishida

1968年横浜生まれ。20歳で起業し、学習塾を創業。4000人以上の生徒に直接指導。講演会やセミナーを含め、5万人以上を指導。現在は「日本から 勉強が嫌いな子を1人残らずなくしたい」と、Mama Cafe、執筆、講演を精力的に行う。国際経営学修士(MBA)、教育学修士。著書に『子ども手帳』『子どもを叱り続ける人が知らない「5つの原則」』、『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』ほか多数。

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