松原:しかし、奨学金の悲劇的な事例を取り上げた報道を読むと、学生たちはどうしても「今からこの地獄に飛び込みますか?」と思ってしまいがちです。その結果、奨学金に関する情報に触れることに臆する学生も実際いて、そこには危機感を覚えています。
千駄木:返済のリスクを考えるのは大事なことですが、外野からの批判や外聞を気にする必要なんかないのに……。正直、これまで奨学金を借りた人たちを、たくさん取材してきた身としては、そう感じてしまいます。
松原:でも、学生たちの大多数は「貧乏と思われることが恥ずかしい」と思っているんです。「奨学金を借りないと大学に進学できない人」にしてみれば、「実家のお金で大学進学できる人」に対するプライドというか羞恥心があるんですよね。人間の心情としては、とても理解できる話です。
現在の奨学金制度は、支援制度として成り立っているか
千駄木:水戸さんに伺いますが、大学職員という立場から見て、現在の奨学金制度は、学生たちを支援する制度として成り立っていると思われますか?
水戸:制度そのものは悪いものではないと思います。借りる人数自体が多いため、どうしても返済で苦労する人もいて、メディアにはそういったトラブルはピックアップされがちですが、松原さんも先程指摘されたように、実際はトラブルに至らずに、淡々と毎月返済している人がほとんどなんですよね。
千駄木:もちろん「返済すべき借金」が増えているのは事実のため、奨学金のリスクを軽んじるのもよくないし、同時に制度面の改善も重要ですが、そもそも大学に行くことで生涯年収が増えるなど「自分への投資」につながる面もあるわけですよね。
松原:その通りだと思います。
水戸:ただ、その一方で「奨学金制度が、理想的な形で運用されているか?」はまた別の話だと思います。これは私が常々思っていることですが、現状の奨学金制度は「頭のいい人が考えた制度」なんですよ。奨学金制度を使う人たちが、確実にJASSOの資料を端から一文字も漏らさずに読み、そのすべてを完璧に理解したうえで、常に最善の速度と方法で動くことができれば、非常に充実している……そんな感じなんです。
千駄木:なんだか「俺の考えた最強の制度」というか……。
水戸:実際のところ、そんな複雑な制度を現実的に使いこなせる人なんてそう多くはないんですよね。奨学金制度の資料はすべて提示されていますが、「情報整理は各自で勝手にやってください」という状態です。例えるなら「目次のない辞典」のような状態なんです。だから結局、私がやっているのは「JASSOの発信している情報を、普段遣いの言葉に翻訳すること」なんですよ。
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