ジュンイチさん(41歳、仮名)から取材場所として指定されたのは、ある有名チェーンの定食店だった。数時間にわたって話を聞くことは知っているはずだ。なぜ、よりによって客の回転が速い定食屋? しかも、約束した時間帯はランチ時だというのに……。
事前に、喫茶店かファミリーレストランでと、こちらの希望を伝えていた。これに対し、ジュンイチさんは自宅近くには適当な店がないという理由で、ギョーザや丼ものがメインの定食店を指定してきたのだ。
電車で1駅分足を延ばしてくれれば、繁華街があるのに……。その分の電車代は、私が負担しますと言ってみようか。こちらで場所を変更したら、気分を害されるだろうか。
私は迷った末、店内の込み具合をみながら、場合によっては途中で店を変えようと考え、まずは約束した定食店に赴いた。
"暗黙の了解"というのが、わからない
会ってみると、ジュンイチさんは、自閉症スペクトラム障害の一種「アスペルガー症候群」だという。診断されたのは、20代後半のころ。発達障害のひとつで、他人との社会的関係や、コミュニケーション能力、想像力などに偏りがあるとされる。彼自身、「一般常識が欠けていると思います。“暗黙の了解”というのが、わからないんです」と言う。
もしかすると、取材場所に、長居がしづらい定食店を選んだのは、ジュンイチさんがアスペルガー症候群であることと関係があるのかもしれない、と思った。
「空気が読めない」ことは、子どもたちの間では、時にいじめのきっかけとなる。
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