20代で「発達障害」と診断された男性の苦悩 空気が読めないので摩擦が絶えなかった

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付き合っていた女性と別れた理由について「高卒なので、社会のことを何もわかっていなかったから」と言ってみたり、大学の友人から「お前、モテないだろ」と言われたことに対し、いまだに「失礼な奴だ」と腹を立てていたり――。執筆しているブログでも、小学校や高校時代の担任教師に対する激しい怒りをつづっている。

私などは、学歴が低いから無知なのだ、と言わんばかりの主張には違和感を覚えるし、友人の一言は、冗談として受け流すことはできないのかと、思ってしまう。

これに対して、ジュンイチさんは、友人の言葉を受け流せないのは、子ども時代のいじめが原因だという。「いじめを受け続けたせいで、いつも人のうわさや視線が気になるようになってしまいました」。

他人からの評価や視線に無頓着なようで、ネガティブな評価には敏感であるように見えた。中でも、小学校時代に受けたいじめへの怒りは根深く、次に会ったら殴り返したいという理由で、大人になってから格闘技を始めたほどだという。

発達障害――。特に大人になってから診断される発達障害への関心は最近、社会でも高まりつつある。私の周囲では、子どもの頃から、生きづらさを抱えていたところ、20歳を超えてから、自閉症スペクトラム障害やADHD(注意欠陥・多動性障害)などと診断され、「障害のせいだったとわかり、ようやく納得できた」といった声を聞くことが多い。

彼らの中には、ジュンイチさんのように子ども時代、いじめに遭ったという人も少なくない。それが原因で、うつや不安症を発症する人もいる。診断名が付くことで、少しでも自己肯定感を回復できるなら、障害が認知されるメリットは大いにあると思う。

発達障害と診断されたがる人が増えている?

一方で、最近は、何かというと発達障害と診断されたがる人が増えているとも聞く。また、ジュンイチさんのように早々に就労不可と診断される人がいるのに対し、明らかに医療や福祉の支援が必要なのに、複数の医療機関を回っても「異常なし」と言われる人がいるなど、医師側の診断基準にも、いまだバラツキがあるように見える。軽度の発達障害と、そうでない人との境目は、極めてあいまいなのではないか。

結局、私たちは、定食店に4時間以上、居座った。関東近郊の地方都市にある、その店舗は、都心と違って、昼時でも満席になることはなかった。マイペースでハイボールを飲むジュンイチさんと、店員の顔色をうかがいながら、つまみのたぐいをちびちびと注文し続ける私――。両者のアンバランスは、今思うと、少し笑ってしまう。

生きづらさなど、誰一人感じない社会が、理想である。ただ、「違い」を受け入れることは、言葉で言うほど簡単なことではない。待ち合わせの場所選びひとつからして、私は一人忖度し、勝手にイラついた。ジュンイチさんのような友人や同僚がいたとして、どうすれば適度な距離を保ちながら、関係を築くことができるのか。

発達障害と診断された人たちのこれまでの葛藤や不安、理不尽に排除された経験を思えば、やはり、問われているのは、私たちが彼らと向き合う姿勢なのではないか。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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