8月にも大きな波が来る。原油価格は容易に100ドルを割らない《アフリカ・中東政情不安の影響/専門家に聞く》
畑中美樹 国際開発センター エネルギー・環境室 研究顧問
--チュニジア、エジプト、リビアへと波及した政変ドミノの背景をどうとらえているか。
中東にはアラブの国と非アラブの国があるが、アラブ国家はアラブ連盟をつくっており、パレスチナ自治政府を入れて22カ国ある。その中で現在、反政府デモが起きておらず、その呼びかけもない国は3つしかない。ソマリア、パレスチナ自治政府、アラブ首長国連邦(UAE)だけだ。このうちソマリアは内政が大混乱しており、パレスチナ自治政府もイスラエルと敵対関係にあり、結局、デモがなく、内政が安定しているのはUAEだけだ。カタールはまだデモはないが、3月16日にデモの呼びかけがある。
チュニジア、エジプト、リビア、さらにはバーレーンへ波及している背景として、4つの要因が考えられる。(1)長期の「独裁」政権で、自由がなく、国民の不満があること、(2)独裁と縁故主義で「腐敗」が蔓延していること、(3)国民の貧富の差が大きく、「生活苦」を感じている人が多いこと、(4)若い人の間で「失業」が多いこと--である。
この4つの点は、程度の差はあるが、中東の国々のほとんどに共通している。これまでこうした国民の不満は顕在化していなかったが、チュニジアでの政変で大統領が海外に亡命し、エジプトでも成功して大統領が退陣。そして、中東・アフリカの中でも最も強権的な政治体制の一つであり、秘密警察が国民を監視し、軍が体制を維持するという国民が最も反抗しにくいリビアでも政権が大きく動揺している。
こうした流れが、他の国民にも大きな勇気を与えた。リビアでもできるだからといって、多くの人が街頭に出てデモに参加した。これをプッシュしたのがフェイスブックやツイッターなどネットの手段だった。
つまり、中東全般に国民の不満を取り入れるような政治システムを作ってこなかったことと、国民の不満を和らげるような政策手段をとってこなかったことが背景にあるため、この流れはしばらく拡大を続けるだろう。
■リビア崩壊なら周辺の反政府デモ拡大、リビアの原油生産は停滞続く
--リビアの政変の行方をどう見るか。
当初は、政権崩壊は秒読みだと見ていたが、反政府勢力がまだ体制を整えて本気でトリポリに進軍していない。その分、カダフィ政権には延命の余裕が出てきた。トリポリ西部のザーウィアや東部のミスラタの奪還の動きも強めている。ただ、大きな流れとしてカダフィ体制の命脈が尽きようとしている状況は変わらない。国連の制裁など国際社会の圧力も強まっており、圧倒的に不利な状況にある。今後は飛行禁止区域の設定や一歩踏み込んだ軍事介入の可能性もあり、それが最後のとどめとなろう。今後3週間ぐらいではないか。