しかし、より真剣な日本の専門家は、そのような見方を安倍氏の政治家としての資質を単純化するものだとして退ける。
「安倍氏が3年間にわたって続けた、中国への大々的なアプローチは、完全に割愛されている」と、英語で書かれた唯一の安倍氏の伝記の著者であるトバイアス・ハリス氏は話す。
安倍氏は、2016年末ごろからーーこれはちょうどトランプ政権と重なる時期だがーー2020年の訪日(実際には新型コロナウイルスの流行により中止された)に向けて、慎重に中国の習近平主席との関係を構築していた。この中国との対話的関係は、「日中両政府の、誰もが必要としている世界の貿易システムをトランプ氏が破壊しようとしているという理解」に基づいていた。
アジア政策についてはタカ派ではなかった
アメリカでは、安倍氏が日本を率いてより積極的な安保上の役割を果たし、アメリカとの防衛同盟を強化しようとしている点が強調されてきたが、安倍氏の外交政策はタカ派の思想というよりむしろ、アジアやヨーロッパとの間に慎重に協調体制を構築すること、世界経済の問題で指導力を発揮すること、外交交渉の重視として理解できる。
「その構想における日本の指導力は格別のものだった」とスミス氏は語る。防衛に焦点を当てつつも、より大きな問題としては経済を「再び上向かせて回していくこと、世界規模の衝撃に対して回復力を高めること」という課題があった。
コロナの世界的流行、気候変動、中国の攻撃的行動は、安倍氏が対処しなければならなかった問題の一部に過ぎない。また、経験あるアメリカの専門家から見て、同じくらい深刻だったのは、バラク・オバマ大統領から不安定で孤立主義的なトランプ氏へと政権が移る中で、アメリカとの同盟を維持するという課題であった。
「安倍氏はアメリカ政治の現実に向き合うために素早く軸足を変える必要があったわけだが、同氏はそれを非常に巧みにこなした」と語るのは、アメリカの対日政策担当として高く評価されているスミス氏である。
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