ウェブ界の近未来を指し示す男の「嗅覚」 Web2.0の提唱者は次に何を見る?

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会議と共に、出版の内容も、コンピュータやインターネットの進化に合わせてどんどん内容が追加されている。オライリー出版の著者群は言わばテクノロジー界のリーダーたち。出版物を一覧すれば、現在のテクノロジーの動き、近未来の方向性がつかめるといっても過言ではないだろう。

オライリーは、「アルファ・ギークたちの微動を増幅させる」ことを使命としている。アルファ・ギークというのは、ギークの中のギークのこと。誰もいない未踏の領域にまでテクノロジーを推し進め、思索や実験を続ける人々のことだ。

彼らの触角が動く時に、その専門的な視点と社会全般の情勢を見比べられるのが、オライリーの特殊な才能だろう。「パターンを見いだすのが好きだ」と彼自身語っている。アルファ・ギークたちの微動が社会にインパクトを与え得るのか、その勘と見極めを備えたオライリーは、テクノロジーがこれだけ重要になった現代では時代の指南役でもあるのだ。彼自身が会議やブログで展開する論説も、ブレのない鋭い視点に裏付けられている。

メイカームーブメントを作り出す

オライリーが始めたことで、日本にも影響を与えているものもある。「メイカー・ムーブメント」だ。オライリー・メディアは、『Make』という雑誌の出版を2005年に始めた。ガレージで発明をする人々の多いアメリカだが、それが少しかたちを変え始めたことに、彼は気づいたのだ。

その変化とは、まず、デジタルなテクノロジーが発明の中に組み込まれてきたこと。そして、人々がインターネットを介して、どこにいても意見交換ができるようになったことだった。発明家はもはや孤独ではない。

『Make』は、そうした新しい発明家たちのコミュニティーを作る役割を担った。今、世界各地で開催されているメイカー・フェアは、これもオライリー・メディアが始めたもので、そうしたモノ作り好きの人々が集まるお祭りだ。

ただのお祭りだけでなく、好きな発明がビジネスになるチャンスもそこには込められている。自分の好きなモノ作りをして起業できるような環境の土台を、オライリーが築いたとも言えるのだ。

現在もテクノロジーはどんどん変遷を続けている。人々が共同作業をし、ハードウェアが消費者の手によって作られる時代が到来し、ロボットが生まれようとしている。ビットコインの裏にあるテクノロジーは、中央集権的でない真の交換経済を可能にするかもしれない。

オライリーは、そうしたエキサイティングな時代の行方を、われわれ一般人に指し示してくれるのである。

 

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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