芸能人用「こころの119」開設に至った哀しい背景 深刻な悩みを相談しにくい芸能人に救いの手

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芸能界における仕事に危険はつきものだ。スタントマンはもちろんのこと、役者が舞台の奈落に落下したり、話し終えた落語家がしびれた足で立ち上がろうとする際に転倒してしまったり。

実は演者よりスタッフのほうが事故が多い。リハーサル中に奈落に落ちた翻訳家もいる。録音作業をしている方はヘッドフォンで完全に耳を塞いでいるので危険に気づきにくい。山中のロケで後ろから岩が落ちてきたのに気づかずに大ケガをした方もいる。

転機は2021年4月、本来は労災保険に加入することができない方でも特別に加入できる労災保険の特別加入制度の適用範囲が拡大されたことだった。

「適用範囲に芸能人も含めてもらいたい」と私は思った。そのための条件として、制度設計に芸能会の当事者が関わる必要があった。芸能界の実情がわかっていないとできないからだ。それに加えて専門的な法的知識や繁雑な手続きも必要だ。でも誰かがやるしかない。

芸能界で働く人は約21万人

一口に芸能界といってもさまざまな人が働いている。労災保険の適用者は誰を対象にするか。国税調査等からスタッフも含めて芸能に従事する人の数は、写真家・映像撮影者が6万人超、音楽家・舞台芸術家が7万人超、音楽家が2万人超、舞踊家・俳優・演出家・演芸家が5万人超。合計で約21万人いることがわかった。

こうした芸能界に関わる人たちのことを総称して「芸能従事者」という呼称を考案し、2021年4月から芸能従事者が労災保険に加入できるようになった。これが、日本の芸能従事者が初めて得た社会保障である。

続けて2021年9月に、芸能従事者をサポートするため、一般社団法人日本芸能従事者協会を設立した。現在までに3万人以上に会員になっていただいている。世間によく名の知られた有名人の方も多くいる。

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