芸能人用「こころの119」開設に至った哀しい背景 深刻な悩みを相談しにくい芸能人に救いの手

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芸能界で働く人たちの環境改善に取り組む森崎めぐみ氏(撮影:今井康一)

事故54件、うち亡くなった方25名、訴訟4件。

これは私が、芸能人が労災保険に加入できるよう制度設計のための協力をしていた際、調べることができた芸能界における1963年以降の重大事故の例だ。実際の数はこれよりもっと多いだろうが、埋もれてしまってもはや表に出てこない。判明している事例のいくつかは以下の通りだ。

・撮影中のセットから引火、延焼しスタッフが一酸化炭素中毒で死亡

・池に潜水して撮影中にスタッフが溺死

・ロケ撮影中にタレントが凍傷、指を切断

・映画撮影中、助監督が山中で蜂に10カ所近く刺される

こうした事故発生状況などを調べていくうちに胸が苦しくなった。救いはその過程で被害者やその遺族と痛みを分かち合えたことだった。

芸能人は労災保険に加入できなかった

私は10代の頃から女優の仕事を始めた。長く業界にいて不安に思うことが多々あった。その一つが芸能人は労災保険に加入できないということだった。

芸能界はフリーランスとして働くのが基本。事務所に所属していても、社員として雇われているわけではない。撮影、大道具、マネジャーなどのスタッフも同様だ。

以前はフリーランスや個人事業主は基本的に労災保険に入ることができず、仕事に関わるすべての責任が自らの肩にかかってきた。労災保険は「日本国内で労働者として会社・事業主に雇用されて、賃金を受けている方」を対象としているからだ。

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