芸能人用「こころの119」開設に至った哀しい背景 深刻な悩みを相談しにくい芸能人に救いの手
成功した芸能人は羨望や嫉妬の眼差しで見られることもあるが、当然、特有の悩みや苦労もある。たとえば役者であれば、役に応じて気持ちを切り替え、クールダウンしたりヒートアップしたりする。この作業には相当な心理的負荷がかかり、役から抜けきれないで苦しむこともある。そのためハリウッドやヨーロッパでは専門のカウンセラーがいるほどだ。
一方、日本では芸能従事者を支える専門カウンセラーはおらず、一般的なカウンセラーへの受療率も9.6%と低い(日本芸能従事者協会が実施したアンケート135回答の結果)。
カウンセリングを受けようと思っても、顔が知られていると待合室で見られるのが苦痛であったり、話した内容が漏れないか心配になる。深刻な気持ちで相談しに行ったのに、カウンセラーから「昨日、テレビで見たよ」とミーハー的なノリで話しかけられたといったケースを聞いたこともある。
コロナで経済的な苦境に陥ったケースも
それでも成功者は収入面などで恵まれているかもしれない。ただそうした人は一握りだ。芸能従事者の中には経済的に苦しい人もいる。予定した出演がコロナでキャンセルになったケースも多いが、補償は当然ない。収入が激減、もしくはゼロになり、メンタルケアも不十分だとうつ病になるリスクも高まる。
コロナで苦しんだのは芸能界に限ったことではないし、コロナが原因ではないかもしれないが、近年、芸能人が自殺で多く亡くなっていることは事実だ。世間で知られているのは有名な方の例だが、知られていないケースも多いと思われる。
「芸能従事者こころの119」は、こうした状況を受けて今年6月からスタートした。利用できるのは日本芸能従事者協会および全国芸能従事者労災保険センターの会員の方で、臨床心理士がよろずメール相談窓口として対応する。状況に応じて適切な機関も紹介する。
世間では以前から働き方改革が喧伝され、状況は変わりつつある。その流れが芸能界にもようやく来ていると感じる。この流れを大切に推進していきたい。