これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
奨学金を借りた者たちの、ハードモードな体験談が集まる本連載。それらと比べると一見「恵まれている」と言われそうなものもある。
しかし、そうしたケースにも時代の影響が大きいのは、過去の記事を読んでもわかるとおり。右肩上がりだった昭和の時代と違い、今の若い世代は誰しもが、少なからず将来に不安を感じており、数百万円の奨学金返済を抱える者になれば、一層その傾向は強いといえる。
今回、話を聞いた松尾結さん(30歳・仮名)も「漠然とした不安」を語るひとりだ。
中流家庭から東京の国立大学へ
東北地方出身の松尾さん。実家は世帯年収600万円〜700万円程度で、父親はごく普通の会社員だったそうだ。
「決して家が貧しかったわけではありませんし、習い事を制限されることもありませんでした。洋服も自由に買ってくれましたが、それでも裕福というほどでもなかったです」
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