「奨学金500万円」女性が早く返す為に選んだ仕事 すぐ隣には「貧困という悪魔」が口を開けている

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以前、私がフリーランスになって収入が不安定になった際、自分のぶんの家賃半分を出すのが苦しくなった時期がありました。その時、夫は『今は収入も違うわけだし、半々ではなく、稼ぎの多い自分が多めに負担するよ』と提案してくれたのですが、私はそれが申し訳なく思えてしまって。気持ちよく納得できず、結局それが原因でケンカしてしまいました」

その後、夫婦はカップルカウンセリングを訪れることに。

「カウンセラーによると私には『経済的困窮への恐怖』があるようで、たとえ金銭的に難しい状況でも『お金のことで夫に頼る』ということは非常にハードルが高く、そこでお金を貸してあげたり、支払いを負担するというのは、私にとって助けにならないということを、カウンセリングを通して夫に理解してもらえたんです。

家賃を払えないというのは、私にとって『人としての尊厳が傷つく』ことと同じなんです。結局、夫婦間での金銭トラブルに関しては夫が『負担するよ』みたいに言うことは極力避けようというアドバイスをいただいて」

「漠然とした不安」に潰されそうな若者たち

本連載はその性質上、高学歴な人が多く登場している。ゆえに政治や経済へのリテラシーも当然高く、世代間の不公平さや、男女間の不平等さなど、今の日本社会が抱える問題に話題が及ぶことも珍しくない。

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だからこそ、奨学金返済という事象に、別の事柄への不安が乗っかってくる。松尾さんは世間的に見れば「ハイスペック」であり、「恵まれている」と指摘する人もいるだろうが、パートナーに経済的に依存せず、出産や育児も見据えたうえで男性と対等に働いている今の女性だからこその、言葉にしがたい不安を抱えている様子だった。

だからこそ、奨学金制度には愛憎半ばとでもいうような感情を持っているようだ。

「『自分のやりたいことをやるため』なので、500万円という奨学金は私には必要な金額だったと思います。実家の家計を考慮すると、奨学金がなかったら大学には行けなかったと思いますしね。

でも、その奨学金を返済できているのも、たまたま私の運がよかったからだけで、奨学金を返済できなかった世界線もあったと思うんです。私は『貧困という悪魔』の口がつねに近くにあることが嫌だったので、ハードワークと引き換えに早期返済をしてきましたが、これが最良のロールモデルとは思えません。返済の苦労や不安を次世代に残すべきなのかというと、それは違うと私は思います」

若い頃の苦労は買ってでもするべきとよく言われるが、はたして奨学金はその苦労に該当するのか。その答えは読者それぞれに委ねるが、いずれにせよ今という時代が、若い人が漠然とした不安を感じる時代なのは間違いないことだろう。

本連載「奨学金借りたら人生こうなった」では、奨学金を返済している/返済した方からの体験談をお待ちしております。お申し込みはこちらのフォームよりお願いします。
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