これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
「妻とお義母さんのおかげで、今の自分は存在できているのだと思います」
この連載を続けていると、奨学金制度と同時に「救いの手を差し伸べてくれる存在の重要さ」を強く感じることがある。現在、弁護士として働く火野祐一さん(仮名/31歳)の体験談を聞いた時も、それを強く思った。
中部地方の某県出身の火野さんだが、実家はかなり貧困家庭だったという。
貧困で歪だった実家
「父は何を仕事にしているのかすら、よくわかりませんでした。僕が小学生ぐらいの時は、カブトムシやクワガタの輸出入ブームだったので、それらを育てて売っていましたね。
そんな働きぶりでもなんとか生きていけていたのは、祖母の年金のおかげです。祖父は私が生まれる以前、60歳にもならずに亡くなったため、その配偶者の祖母には2カ月で30万円近くの遺族年金が入っていたそうです。
一応、私が小学生の頃は母も働いていたので、その遺族年金を元になんとか、その日暮らしという感じでした」
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