これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
「親が面倒を見るのは高校まで」という教育方針
「親の教育方針で『親が面倒を見るのは高校まで。その後は、自分で責任を持って、自分の力で生きていきなさい』と言われて育ちました」
今回話を聞くのは森本博さん(38歳・仮名)。優しげな雰囲気、話しぶりが印象的な男性で、出身は北海道。現在は東京にて、教育関係の仕事をしているという。きょうだいは自身を含めて3人で、本連載ではもはや恒例になりつつあるが、一番上だ。
それにしても、「高校を出たら自分で生きていきなさい」というのは昔気質な教育方針だが、そこには森本さんの父自らの経験が大きく反映されていたようだ。
「父は中学時代に父親(森本さんにとっては祖父)を亡くしていたので、『父親の力でなく、自分の力で生きてきた』というような自負があるようです。だから、18歳になった息子にも、そうさせたいという気持ちがあったんでしょう」
そんな考えを持つ父ではあったが、バブル崩壊などの影響を受け収入は少なく、家は裕福とはいえなかった。
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