これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
仕事が続かない両親
「うちの父は、よく言えば手広い、悪く言えばひとつの仕事が続かない人でした。害虫駆除や清掃業など、いろんなことをやっていましたが、何をやっても失敗するので、収入がほぼゼロだったこともありました。昔からお金のない、貧乏な家でしたね」
そう語るのは小野修平さん(25歳・仮名)。中国地方の某県にて、理学療法士として働く男性で、お年寄りに好かれそうな、とても優しそうな雰囲気の持ち主だ。
父の不安定な仕事ぶりが理由で奨学金を借りることになった小野さんだが、今の職業を目指すきっかけとなったのもまた、父の影響だったという。
「僕が高校生だった頃、父はマッサージ師をしていました。練習のために僕の身体を揉んでいたのですが、的確に自分の身体の凝っているところや、気持ちいいところを指で当てられたんですよ。今思えばそこまででもなかった気もするけど、当時は『うまいな』って思ってて。そんななか、父から『理学療法士という仕事がある』と聞いて自然と憧れるようになったんです」
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