小野さんの話を聞くなかで、筆者が感じた彼の印象は「ただただ真面目」というものだった。
実際、その性格と勉学に取り組む姿勢の結果なのか、学費免除の学生に選ばれたこともあったという。
「本当は3年分免除してほしかったけど、裕福でない家出身の学生は僕以外にもいました。『今季はあなた、来季は彼女』というふうに、成績優秀者から先生が生徒を選んでいましたね」
その後、国家試験のために猛勉強し、無事に合格。就職先も決まり、小野さんは晴れて理学療法士としての第一歩を踏み出した。
「すごく大変」な返済生活
就職に際して、実家を離れて一人暮らしを始めた小野さん。両親、とくに父親に対して複雑な思いを抱いていた彼としては、一人暮らしは待ちに待ったイベントだったが、就職から半年が経過し、奨学金の返済が始まると、想像以上に大変だったようだ。
「毎月2万130円の返済が、42歳まで続きます。正直、すごく大変です。理学療法士はそれほど収入の多い職業ではありません。少ない自分の手取りから毎月2万円が引かれ、そのうえで生活費もかかってくるので、自分で使えるお金は本当に少ないです」
真面目な性格の小野さんは、一人暮らしの準備を大学時代からしていた。バイト代をコツコツ貯めていたほか、授業料免除で浮いた奨学金を浪費せず、貯蓄していたのだ。
だが、それでも奨学金の返済は少しずつ負担になってきた。
「返済が始まるまでの半年間にある程度貯金はできていたので、月に2万円が出ていっても生活は維持できていました。でも、やっぱり『それがなければ、もう少しいい生活というか、欲しいものが手に入るなとは思いますね」
「いい生活」と言うと、娯楽にお金をかける生活を想像する人もいるかもしれない。しかし、小野さんの言う「いい生活」「欲しいもの」は、たとえば車であった。
「最近、やっと車を買えました。3年間せこせこ貯金して、なんとか生活に最低限の余裕があるうえで、ようやく車を買えたという感じです。しかも、自分の理想より100万円ぐらい安い車種です。おそらく毎月の2万円の返済がなければ、もう少しグレードの高い車を早いうちから買えたなと思います」
具体的な地域名はここでは明かせないが、聞けば多くの人が「よくそこで、車なしで暮らしてましたね……」と思うような場所である。
また、車絡みで言えば、奨学金の返済は結果的に、恋愛にも影響を及ぼしたようだ。車を買えないでいる間、交際中の彼女と会う時は、すでに車を所持していた彼女に迎えにきてもらっていたのだ。
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