奨学金を借りたことで、理学療法士になることができた小野さん。「今の仕事は自分に合ってますし、やりがいもあります」とのことだが、両親への複雑な気持ちは募るばかりのようだ。
「奨学金と関係のない話にはなりますが、僕は両親が結婚する前に生まれた子どもなんです。その後も、仕事がうまくいっていないのに弟と妹は生まれている……なんというか、そういう計画性のなさが本当に嫌なんです。現に今も、清掃の会社をやっているんですけど、興してから2~3年経っているのに全然収入がないらしいんですよね。
あと、僕の祖父母が僕に学資保険を掛けていたらしいのですが、その存在を僕はつい最近まで知らなかったんですよ。で、どうやらその100万円近くのお金は、父が無職の時期にすべて下ろして生活費に使っていたらしい。
僕が幼い頃から、祖父母は毎月3000円をコツコツ貯めてくれてたそうなんです。それを、生活のためとはいえ勝手に使われたこと、それを僕に言っていないことに腹が立つ。僕だけならまだしも、祖父母にまで迷惑かけていて、行き当たりばったりというか、周りに依存してというか……。
それなのに、息子の僕に対しては『大学に進学したいなら、国家資格を取れる医療短大に奨学金を借りていくしかないよね』と薦めてくる。奨学金を借りる以外の道はないということを、両親はわかっていたと思うんですよ。なのに、僕が説明会に自発的に行ったことによって『自分の意志で奨学金を借りた』みたいにされたのが腹立たしくて……すみません、何の話でしたっけ?」
親から「30万円」の無心が…
相当に複雑な感情を抱えているようだが、かといって、「そんな親、捨てればいいのに」などの助言が有効なわけではない。この取材当日にも、両親からお金の無心があり、小野さんは30万円を渡してきたというのだ。背景にあるのは、年の離れた弟、妹の存在だ。
「僕が生まれる前から、両親は賃貸アパートで暮らしているのですが、そのアパートが今年の6月に老朽化で取り壊されることになったんです。それで、両親と弟、妹は引っ越しを余儀なくされたのですが、今日その引っ越し資金30万円を貸してくれと親に言われて……。
1年前から張り紙もありましたし、両親もわかっていたはず。引っ越し資金を貯めようと思っても貯まらなかったのか、貯める能力がないのか、僕がどうせ出してくれると思っていたのか……聞くのも怖いので聞きませんでしたが、弟と妹がかわいそうなので出しました。彼女にはまだ話していません」
奨学金を借りた結果、恋人に対して申し訳なさを覚えるようになった小野さん。その一方で、両親とのいびつな関係性は続いていく。人生というものがいかに複雑で、割り切れないかを感じさせてくれるライフストーリーであった。
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