これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
「小学生の頃に両親が離婚し、私は母子家庭で育ちました。母・弟との3人暮らしで、奨学金は高校生の頃から借りています」
本連載の応募には、高校生の時から奨学金を借りていた人からの応募がある。関東地方に住む、小柳葵さん(33歳/仮名)もそのひとりだ。
「母は正社員と契約社員を行き来していて、正直稼げていませんでした。母子家庭ということもあり、私が進んだ公立高校の学費は免除になりました。
だけど、母から『借りないと学校に行けない』と言われ、中学生の私はよくわからないまま無利子の奨学金を60万円分申し込みました。『奨学金を借りている』という意識もないまま高校を卒業、大学入学前に奨学金の返済を促す通達がきたときは驚きましたね」
奨学金を借りた経緯
金銭的な理由から大学進学を諦める人は少なくないが、それでも、小柳さんの進学を後押ししたのは母親だった。
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