そんな中流家庭出身の松尾さんだが、高校生の時から奨学金に関しては借りることを受け入れていたという。その理由は、5歳年上の兄の存在だ。
「東京の大学に行くつもりで勉強していたのですが、兄が奨学金を借りて東京の大学に入ったので、私も同様に借りることになるんだろうな、とは思っていました。同じように実家を出て大学進学する友達の多くも奨学金を借りようとしていたので、当初は『そんなものなんだろうな』と思っていました」
松尾さんが通っていた高校は公立の進学校。地元の国立大学に行くクラスメイトが多かったが、松尾さんは塾にも通わずに独学で都内の有名国立大学に一発合格を果たす。周りは大変驚いたが、両親の反応は少し違ったという。
「母は芸術系の仕事をしていたので、芸大には詳しいんですけれど、一般大学にはあまり興味がないようでした。だから、子どものときから『勉強しなさい』と言われることもなくて。
父も放任主義だったので、『自分が希望する大学に行けばいい』というスタンスでした。正直、2人とも私が合格した大学の難易度をわかっていなかったのだと思います。『行きたい学校に合格できてよかったね』ぐらいでしたね」
こうして、高校卒業とともに上京した松尾さん。入学と同時に第二種奨学金(有利子)を毎月8万円借り、先に上京していた兄と一緒に住むことになる。
「学費は両親が、家賃は兄が払ってくれていたので、それ以外の生活費を奨学金とバイト代でまかなっていました。大学4年間の奨学金の貸与額は384万円です。ただ、返還額になると利子がついてくるわけで、貸与奨学金返還確認票では貸与利率の上限である3.0%で計算され、20年では返還総額予定額は516万円と記載されていました。利子が大きくて、初めて見た時はびっくりしましたね」
学業に打ち込んだ大学・大学院時代
前述のように、ハードモードな生い立ちの人が登場する本連載。彼らの多くはバイト漬けになる。そういう意味では、学費と家賃を払わなくてもよい松尾さんは、そこまで働かなくてもよさそうに思えるが、「短期含め、当時は20以上バイトをしていました」と振り返る。
「だって普通に友達と遊んでいたら、つねにギリギリになるんですよ。金銭的に楽だと思ったことは一回もないです。
あと、私は読書が好きで、自分の専攻の本をよく読んでいたのですね。ただ、学術書は一冊5000円〜6000円もすることがザラです。翻訳されていない海外の原著になると、もっと高くなります。もちろん、大学図書館で借りればよいのですが、私は直接本に書き込まないと頭に入らないタイプだったので、古本でもいいから自分の物を手に持ちたかったんですよね」
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