現在、ロシアが挑戦している秩序は、まずアメリカの覇権であり、さらには自由民主主義体制の優越です。第2次大戦後、わけても冷戦終結後の基本的な枠組みをくつがえそうとしている。ついでに世界的なエネルギー不足や、食料危機が生じる恐れまであるのですから、大騒ぎにならないほうがおかしい。日本国内の反応に見られる特徴も、これと無縁ではないでしょう。つまりは自分たちの存立の基盤が揺るがされているのです。
保守派の人たちの言説への違和感
施:そこで私が気になるのは、保守派の人たちの言説です。日本では保守派もロシアを厳しく批判していますよね。リベラル派の人たちがロシアを批判し、「ロシアが戦後の国際秩序を力によって破壊しようとしている。我々はロシアを批判し、戦後秩序を守らなければならない」と主張するのはよくわかります。彼らはリベラルな戦後秩序を重視しているわけですからね。
しかし、保守派が何の留保もつけずに戦後体制や戦後の国際秩序を守る側に立っているのを見ると、現実的に考えればそういう立場をとらざるをえないということなのかもしれませんが、違和感を覚えます。
古川:私も同感です。ウクライナが表明している歴史観に立つなら、今回のロシアの侵攻はアメリカを中心とするリベラルな国際秩序に対する挑戦ですから、ゼレンスキーが真珠湾や昭和天皇をもち出して、ロシアを戦前の日本になぞらえるプロパガンダを発信するのは当然です。
そのウクライナを支持するということは、要するにいわゆる東京裁判史観を受け入れることになってしまいますから、本来、保守派はそう安易に全面的なウクライナ支持は表明できないはずです。せめて苦々しい思いくらいはもっていないとおかしいと思うのですが、昭和天皇の写真が出て慌てている人たちなんかをみていると、どうもそのへんのことがわかっていないんじゃないかという気がしましたね。
佐藤:国のあり方について、どちらも真剣に考えてこなかったことが露呈されたと見るべきでしょう。左派が信奉する平和主義とは「アメリカの覇権に依存しながら、自立したつもりになってダダをこねる」というもの。だからロシアが当の覇権に正面切って挑戦し、武力なしには秩序が守れない現実に直面させられると、アイデンティティが破綻してしまう。できることと言えば、戦時下では守られるはずのない「人道」に執着し、「今すぐウクライナに平和を!」と叫ぶくらい。
ならば保守はどうか。彼らは国際秩序に挑戦した戦前の日本を評価している。にもかかわらず日米同盟重視で、アメリカの覇権に支えられた戦後の国際秩序を肯定することにもこだわっている。となれば「プーチンにはプーチンの正義があるのではないか」などと主張できるはずがない。冷戦の勝ち組という、自分たちの足場まで揺らぎますからね。