「核武装論者」と「9条論者」が非常に似ている理由 「保守と左派」双方のご都合主義は危機には無力

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佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家・作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。1990年代以来、多角的な視点に基づく独自の評論活動を展開。『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)をはじめ、著書・訳書多数。さらに2019 年より、経営科学出版でオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻を経て、現在『2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻が制作されている。オンライン読書会もシリーズで開催(写真・佐藤健志) 

佐藤:憲法9条は自衛権を否定しないと解釈されている以上、核兵器を持つこと自体はべつに違憲ではない。先制使用は無理ですが、あとは民意次第でしょう。時代の風向き次第では、日本が核武装に踏み切ることはありうると思います。

ただ、ウクライナ戦争を見ればわかるように、いま起きていることは核兵器の通常兵器化です。核兵器を使用することのハードルが低くなっており、事と次第によっては使っても構わないという雰囲気が広がりつつある。こちらが核兵器を持ったからといって、相手が(核を含めた)攻撃を仕掛けてこないとは言い切れません。

核兵器は大した抑止力にならない恐れがあるのです。エネルギーや食料の自給体制を強化したり、ハイブリッド戦に備えて、防衛省の「サイバー防衛隊」を拡充したりするほうが、すぐできるし、安全保障への貢献も大きいのではないでしょうか。

核兵器が抑止力にならない理由

中野:私も核兵器は抑止力にならないと思っています。特に相手が中国の場合、核武装をしたところで日本を守れるとは思えません。

これには3つの理由があります。第1に、日本と中国では国土面積が全然違うということです。核武装さえしていれば外国からの核攻撃を抑止できると言われていますが、それでも中国が核の使用を決断した場合、どうするのか。お互いに核兵器を撃ち合うことになれば、先にギブアップするのは面積の狭い日本です。しかも、日本は今からどんなに急いだって中国ほど多くの核兵器を持つことはできないので、その点でも中国に劣ります。

第2に、核兵器では尖閣諸島を守れないということです。先ほど言ったように、中国に尖閣諸島を占領され、シーレーンを押さえられることになると、日本は干上がってしまいます。もし中国が尖閣に攻め込んでくるとしたら、武装漁民などによるハイブリッド戦か、あるいは通常兵器を使用するでしょう。それでは、それを防ぐために日本は核兵器を中国に撃ち込むのか。ありえません。そんなことをすれば国際社会から非難されて孤立するのはわが国です。だから核兵器を持ったところで、尖閣防衛にはつながらないのです。

第3に、日本が核武装すること自体が、中国が日本を攻撃する口実になるということです。今回ロシアがウクライナに軍事侵攻した理由の1つとしてあげていたのが、ウクライナが核開発を秘密裏に進めているということでした。また、2003年にアメリカがイラク侵攻に踏み切ったときも、イラクが大量破壊兵器を持っていることを口実にしていました。2つとも、単なる「口実」で、本当に核兵器が準備されていたわけではないのでしょうが、ともあれ、核兵器が攻撃を正当化する口実にされたのは間違いない。

ここで仮に日本が核武装を決断し、核開発の準備を始めたとしましょう。中国がそれを黙って見ていると思いますか? 中国は間違いなく、「日本が大量破壊兵器を持つことは中国の安全保障に対する直接的な脅威だから、それを取り除くために日本を攻撃する」と言ってくるでしょう。日本の核開発が終わる前に、一気に攻撃を仕掛けてくるはずです。

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