プーチンが覚醒させた世界各国のナショナリズム ウクライナで「民族浄化」が起こる危険性も

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ウクライナ情勢をめぐって、世界各国の「ナショナリズム」はどのように変化していくのか(写真:Peter Klaunzer/Bloomberg)
中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、古川雄嗣(北海道教育大学旭川校准教授)など、気鋭の論客の各氏が読み解き、議論する「令和の新教養」シリーズ。
今回はウクライナ情勢をめぐって、「ナショナリズム」の視点から徹底討議。今回は、前編をお届けする。

それでもナショナリズムを否定するのか

中野:ロシアのウクライナ侵攻は世界にとって非常に大きな事件です。日本のメディアも連日のようにウクライナのことを報じていますが、ウクライナのゼレンスキー大統領の発言や、ロシアが破壊したマリウポリの悲惨な状況など、日々の情勢を追いかけたものが多いという印象を受けます。

これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論します。この連載の記事一覧はこちら

しかし、この戦争にはもっと論じなければならない問題がたくさんあると思います。そこで、この座談会ではもう少し違う切り口から議論できればと思っています。

まずは古川さんから、この戦争をどのように捉えているかお話しいただけますか。古川さんは北海道の大学で働いていますから、私たちの中でいちばんロシアの脅威を感じていると思います。

古川:いや、ほんとに(笑)。北海道から本州へは陸路で逃げられませんからね。攻められたら死ぬしかありません。

それはともかく、私もウクライナ関連の報道に関しては中野さんと同じ印象を持っています。とにかく「ロシアはひどい」「ウクライナはかわいそうだ」といった感傷的な報道ばかりで困ったものだなと。

別の機会にもお話ししたことですが、私はこの戦争で日本人が問われていることの1つは、ナショナリズムとどう向き合うか、ということだと思います。

戦後の日本では、「ナショナリズムは戦争につながるから危険だ」などということが言われ続けてきました。さすがにそんな幼稚なことを言う人はもういないだろうと思いきや、さにあらずで、とくに私がいる教育学の世界では、いまだにナショナリズムはタブー中のタブーです。

たしかに、今回の戦争を引き起こしたのはロシアのナショナリズムであるという側面はあります。しかし、そのロシアに抵抗しているのもまた、ウクライナのナショナリズムです。

「ナショナリズムは危険だ」というのは簡単ですが、それならロシアに対するウクライナ人の抵抗もまた、「危険なナショナリズム」として批判されなければなりません。

実際、そう批判したのが、「ウクライナは抵抗せずに降伏すべき」と主張した日本の一部のコメンテーターです。しかし、いうまでもなく、それは結局、ロシアの帝国主義的なナショナリズムを無抵抗に是認することにしかなりません。だから、彼らの主張は、多くの常識的な国民の怒りを買ったわけです。

単純にこう考えてみるだけでも、われわれはいいかげん、ナショナリズムを主体的に引き受けることを、真剣に考えていかなければならないということがわかるはずだと思います。

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