脱成長派の誤り
中野:岸田総理は小泉政権以来の構造改革路線を転換すると表明しましたが、その代わりに政権のコンセプトとして掲げたのが「新しい資本主義」でした。新しい資本主義とは何かと言うと、成長と分配の好循環を作り出すことだというのが岸田総理の説明です。
これまでも経済成長と分配に関してはさまざまなことが言われてきました。成長が先か分配が先かとか、成長も分配も両方大事だとか、成長と分配は両立できるのかなど、多くの人たちがこの問題をめぐって議論を重ねてきました。
私が見るに、高尚な議論を好むインテリたちはたいてい「脱成長」を掲げ、経済成長に対して懐疑的な姿勢をとっています。彼らはかつてのような経済成長は望めないとか、経済成長そのものを目的とするのはよくないとして、幸福や公正など経済成長以外の価値を大事にすべきだと主張しています。特にリベラル派の中にはこの手の議論を好む人が多いですね。保守派にも脱成長を打ち出している人はいますが、やはり左派が中心だと思います。
また、脱成長派は経済成長に対してだけでなく、新自由主義に対しても批判的です。経済成長もやめるべきだし、構造改革もやめるべきだというわけです。
しかし、これは非常に奇妙な話なんですよ。たとえば、新自由主義者たちは経済成長を実現するために構造改革を実行すべきだと言ってきました。ところが、日本はずっと新自由主義政策をとってきたにもかかわらず、経済は全然成長していません。これは、日本だけではありません。1980年代以降、新自由主義政策を採用した国の成長率は、それ以前と比べて軒並み低くなっています。