「脱成長」論が実は「経済成長」を導いてしまう逆説 新自由主義が経済成長にブレーキをかけていた

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総選挙を与党勝利の形で終えた岸田首相に「新しい資本主義」実現は可能なのだろうか(写真:tadamichi/iStock)
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第101代内閣総理大臣に選出された岸田文雄氏。自民党総裁選から総理選出後にかけて、これまでの新自由主義的路線を転換し、「新しい資本主義」の実現を訴えている。総選挙を与党勝利の形で終えた岸田首相に「新しい資本主義」実現は可能なのだろうか。
中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、柴山桂太(京都大学大学院准教授)の気鋭の論客4名が読み解き、議論する「令和の新教養」シリーズに今回は古川雄嗣氏(北海道教育大学旭川校准教授)も参加し、徹底討議。今回は全3回の最終回をお届けする(第1回はこちら、第2回はこちら)。

脱成長派の誤り

中野:岸田総理は小泉政権以来の構造改革路線を転換すると表明しましたが、その代わりに政権のコンセプトとして掲げたのが「新しい資本主義」でした。新しい資本主義とは何かと言うと、成長と分配の好循環を作り出すことだというのが岸田総理の説明です。

これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論します。この連載の記事一覧はこちら

これまでも経済成長と分配に関してはさまざまなことが言われてきました。成長が先か分配が先かとか、成長も分配も両方大事だとか、成長と分配は両立できるのかなど、多くの人たちがこの問題をめぐって議論を重ねてきました。

私が見るに、高尚な議論を好むインテリたちはたいてい「脱成長」を掲げ、経済成長に対して懐疑的な姿勢をとっています。彼らはかつてのような経済成長は望めないとか、経済成長そのものを目的とするのはよくないとして、幸福や公正など経済成長以外の価値を大事にすべきだと主張しています。特にリベラル派の中にはこの手の議論を好む人が多いですね。保守派にも脱成長を打ち出している人はいますが、やはり左派が中心だと思います。

また、脱成長派は経済成長に対してだけでなく、新自由主義に対しても批判的です。経済成長もやめるべきだし、構造改革もやめるべきだというわけです。

しかし、これは非常に奇妙な話なんですよ。たとえば、新自由主義者たちは経済成長を実現するために構造改革を実行すべきだと言ってきました。ところが、日本はずっと新自由主義政策をとってきたにもかかわらず、経済は全然成長していません。これは、日本だけではありません。1980年代以降、新自由主義政策を採用した国の成長率は、それ以前と比べて軒並み低くなっています。

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