しかしその後、成長を目指して改革するようになった途端、日本経済はかえって成長しなくなってしまった。人間は意識的にやればやるほど失敗するということです。
佐藤:経済成長の実現「だけ」を目指していたわけではないとは、微妙にして意味深長ですね。問題は目標設定のさじ加減なのでしょう。
新自由主義を脱却するために不可欠な存在の中間団体
中野:経済成長を目指せば経済が成長するなら、学問なんて必要ないですよ。
佐藤:原理原則を自明のごとく見なし、実践にばかりこだわるのは、現実的な態度のように見えて、根本の問題から逃げているだけのことが多い。だから自滅が待っている。もっとも、政治とは実践だというのも事実ですが。
中野:経済成長を目指しても経済が成長しないというパラドックスがあるからこそ、社会科学や社会哲学が必要にもなるのです。
施:柴山さんのおっしゃるように、分配のあり方を変えるためには農業や業界団体などの存在も重要になります。こうした中間団体は新自由主義を脱却するために不可欠の存在です。
テキサス大学で政治学を教えているマイケル・リンドという人がいますが、彼は新自由主義やグローバリズムから脱却するには、中間団体を再生する必要があると言っています。新自由主義の世の中ではグローバル企業や投資家などの政治的影響力が非常に大きくなる反面、庶民の声が政治に反映されにくくなります。
もともと庶民が政府に意見を届けることは難しく、彼らの声は中間団体を通して政治に反映されていました。しかし、最近では中間団体は「既得権益」「抵抗勢力」だと批判され、力を落としています。そのため、グローバル企業などの影響力がさらに強くなり、庶民の声はますます政治に反映されなくなってしまっています。
中野:中間団体の力が強ければ、一部の人だけが得をするような新自由主義政策はとれません。中間団体の言うことを聞きながら利害調整をしていれば、絶対に新自由主義にはならないのです。グローバル企業や投資家たちはそのことがよくわかっているから、目障りな中間団体を攻撃してきたわけです。中間団体が復活しない限り、新自由主義を食い止めることはできません。
施:岸田総理は自らの特技は「聞く力」があることだと言っています。そうであれば、ぜひ中間団体の話を根気強く聞き、かつての自民党のような調整型の政治に戻してほしいですね。これはリベラル派が一番苦手な分野で、リベラル派にはこういうまねはできません。そういう意味でも岸田総理の責任は重大だと思います。
(構成:中村友哉)
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