「脱成長」論が実は「経済成長」を導いてしまう逆説 新自由主義が経済成長にブレーキをかけていた

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近年、日本は「クールジャパン」などと言って、政府主導で日本の大衆文化を世界に売り込もうとしていますよね。しかし、日本の大衆文化の元気がなくなってきたのは、クールジャパンを始めたころからですよ。中野さんがよくおっしゃっていますけど、クールジャパンはまさに「寒い日本」です。こんなことをするより、お金と暇のある分厚い中産階級を作ったほうが、よほどイノベーションが起こると思います。

どうすれば経済成長するか

中野:岸田総理が「新しい資本主義」を実現するためには、経済成長とは何か、どうして起きるのかをきちんと押さえる必要がありますね。

柴山:最近では政権が変わるたびに「こうすれば経済成長できる」といった成長戦略が出てきますが、本当に経済成長は政治がコントロールできるものなのか。経済成長が政治の目標に入ってきたのは比較的最近のことです。でも、どうすれば経済成長が起きるのか、経済学でもまだわかっていないことが多いですからね。確実に経済成長する方法がわかっているなら、人類の物質問題は解消しているはずです。

柴山 桂太(しばやま けいた)/京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。専門は経済思想。1974年、東京都生まれ。主な著書にグローバル化の終焉を予見した『静かなる大恐慌』(集英社新書)、エマニュエル・トッドらとの共著『グローバリズムが世界を滅ぼす』(文春新書)など多数(撮影:佐藤 雄治)

これまで政治がこだわってきたのは、成長ではなく分配でした。成長が実現できるとは限りませんが、分配は政治的に調整可能です。もっと言うと、政治とはそもそも分配闘争です。労働者と資本家の分配もそうですし、業界団体間における分配もそうです。政治は限られた資源を、どういうルールに基づいて分配するかを問題にし続けてきたわけです。

経済学者は、市場原理に基づいて分配が行われると考えますが、それは事態の一面でしかありません。いつの時代だろうと、分配には政治が介入します。労働者や資本家たちがそれぞれ自分たちの取り分を要求し、政治がそれを調整するのです。

この間、日本を含め多くの国では資本家に有利な分配が行われ、社会的弱者や庶民が苦しい立場に置かれてきました。こうした状況を変えることができれば、結果的に経済成長が起こる可能性は十分あると思います。だから政治は経済成長を目標にするのではなく、分配の是正を目標にすべきです。

中野:確かにそうですね。日本では1950年代、60年代に高度成長を実現しました。これは歴史的に見て驚くべきことでしたが、当時の日本は必ずしも経済成長の実現だけを目指していたわけではありません。日本は戦争によって大きな打撃を受け、多くの人たちが日々の生活に苦しみ、貧困にあえいでいました。そのため、政府は貧困をなくし、雇用を確保し、格差を是正しようと努めたのです。貧困が続くと日本が共産化する危険があったので、大衆をなだめる狙いもあったと思います。その結果、日本経済は成長していたのです。

次ページしかしその後、日本経済はかえって成長しなくなってしまった
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