「核武装論者」と「9条論者」が非常に似ている理由 「保守と左派」双方のご都合主義は危機には無力

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ところが、そのウクライナにロシアが武力侵攻し、核兵器の使用までちらつかせているのに、アメリカは軍隊を送ろうとしない。NATOも同様です。ゼレンスキーはウクライナ上空を飛行禁止区域に設定し、ロシア空軍の侵入を阻止するように求めていますが、NATOは拒んだまま。こうした状況を踏まえれば、日米安保条約があるからと言って、アメリカが日本のためにどこまで戦ってくれるかは疑問でしょう。

むろん在日米軍が攻撃を受けたら、反撃しないわけにはゆきません。そうでなくとも、日本が攻撃されているのに在日米軍は傍観を決め込むとなったら、アメリカの国際的信頼は丸つぶれ。しかし日本本土ならともかく、尖閣諸島となると微妙と言わざるをえない。戦後日本の保守は「アングロサクソン至上主義」を決め込み、アメリカと組んでさえいれば大丈夫と構えてきましたが、もはやその考えは通用しないと思います。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『小林秀雄の政治学』(文春新書)などがある(撮影:尾形文繁)

中野:アメリカが日本にために何かやるとすれば、ウクライナと同様、せいぜい武器の供与や経済制裁くらいでしょう。しかし、武器供与とは要するにドローンなどを日本に送って、「自分たちは戦わないが、お前らはこれを使って自分たちで戦って国を守れ」ということですからね。経済制裁にしても、ロシアと中国では経済規模が全然違うから、中国に厳しい経済制裁を科せば自分たちも大変なダメージを受けることになります。だから、より穏当な制裁になる可能性がある。

それから、中国は別に東京を陥落させようとしているのではなく、尖閣や台湾をはじめとするいわゆる「第一列島線」を押さえ、いざとなったらシーレーンを押さえることで、日本をいつでも干上がらせることができる状態に置こうとしているのです。彼らは最初から米軍基地のあるところを攻めようなんて思っていないのです。

尖閣にしても台湾にしても、ウクライナのように面積が大きくないから、中国が占領しようと思えばあっという間でしょう。違いがあるとすれば、ウクライナはロシアと陸続きですが、尖閣や台湾は海に囲まれているという点くらいでしょう。しかも、台湾はまだしも尖閣は人が住んでいないから、尖閣を占領したって人道上の危機は生じません。だから中国が尖閣に攻め込んでも、どれだけ国際的な非難があるかわかりません。それほど日本は不利な状況に置かれているということです。

日本は核武装すべきか

:こうした国際情勢を受けて、日本では核兵器をめぐる議論が行われるようになっています。安倍元総理がアメリカとの核シェアリングについて議論すべきだという問題提起を行ったことが話題になりました。

しかし、ただでさえアメリカに依存しているのに、核兵器まで共有するようになれば、さらにアメリカ依存が強まってしまう恐れがあります。核兵器について議論するなら、核共有にとどまらず、核武装にまで踏み込むべきです。現に、フランスのエマニュエル・トッドは、日本は核武装すべきだと提言しています。日本が国際情勢の荒波に引きずられず、自律性を保つためにも、核武装の是非について大いに議論すべきだと思います。

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