潜在成長率の低下が問題、規制緩和で民間活性化を--岩本康志・東京大学大学院経済学研究科教授《デフレ完全解明・インタビュー第8回(全12回)》
要点
・日本経済は循環的には回復へ。構造的には内需拡大が必要
・金融政策の効果に限界。財政は理念欠くバラまきに問題
・潜在成長率高めるには技術進歩が重要。規制緩和の推進を
--日本経済の停滞の理由は何でしょうか。
循環的な問題と構造的な問題の両方があり、それが相まって低成長が続いている。循環的な問題についていえば、リーマンショック後、輸出が急激に落ち込み、生産が低下している。回復方向にあるが、需給ギャップはまだ相当な幅で存在している。ただ、欧米は金融危機に直面しているが、日本の金融システムは傷んでいない。輸出の回復が進めば、日本経済は回復していく。
構造的な問題は、世界経済のリバランス(均衡の回復)のためには、輸出頼みの回復では不十分で、内需を拡大する必要がある。潜在成長率を高めるには、重要なウエートを持つ技術進歩を高めなければならない。
--デフレはなぜ長期間続いてしまっているのでしょうか。
CPI(消費者物価指数)を見ると、リーマンショックの前には、国際基準であるコアコアCPIで見ても、かろうじてゼロになっていた。デフレを脱却していたとは言いがたいが、現在の状況に舞い戻ったのには、循環的な要因が影響したことは間違いない。
デフレの長期化の要因としては、低いインフレ率が続いたことで、期待インフレ率が低下したことが挙げられる。これが金融政策の自由度を狭めるという弊害を生じている。リーマンショック前に、すでに日本の政策金利は0・5%に下がっていたので、欧米のように3%ポイントも金利を引き下げる余地がなかった。そのため、実質金利は高止まりし、図らずも引き締め効果が出てしまう。
伝統的金融政策の余地がなくなり、日本銀行は長めの金利に働きかける「時間軸政策」を再び採用した。さらに、「包括緩和」として、リスク資産の購入にまで踏み込んだ。しかし、時間軸政策までが、金融政策として中央銀行が行える精いっぱいの範囲。これ以上の景気刺激が必要な場合は、政府が財政政策を行うべきだ。財政政策に関しては、効果についてもリスクについても、われわれは経験を積んでいる。また、国会で意思決定を行うので、財政民主主義にかなう。リスク資産の購入は効果が不確かなうえに、中央銀行という独立した機関が、国民負担が発生するかもしれない決定を行うことは、厳密に考えれば、憲法に抵触する。