潜在成長率の低下が問題、規制緩和で民間活性化を--岩本康志・東京大学大学院経済学研究科教授《デフレ完全解明・インタビュー第8回(全12回)》
中央銀行の政治化が正常な金融政策の運営を脅かす
米国でも流動性を迅速に供給するために、破綻した金融機関の処理に、議会の決議を経ずに、中央銀行が動かざるをえなかった。だが、そのために金融政策自体が政治化してしまった。こうした事態は中央銀行の独立性を脅かし、正常な手段としての金融政策の運営に支障を来すおそれもある。
--量的緩和の一層の拡大やインフレ目標政策を求める人もいます。
通常であれば、貨幣の数量を増やせば物価は上がる。だが、ゼロ金利の下では貨幣とそれ以外の金融資産が完全代替に近づくので、貨幣をいくら増やしても、物価は上がらない。今の日本は貨幣数量説が成立しない流動性の罠に陥っている。
インフレ目標については、今でも日銀は弱い形で設定していると見ている。「中長期的な物価安定の理解」という形で、「0~2%」と示しているので、ここに復帰するまで、金融緩和を続けるだろうという予想を形成させる。時間軸効果やある種のアンカーとなる効果はある。ただ、これよりも高いインフレ率の目標を設定してインフレが起こるかといえば、私は懐疑的だ。インフレ率がどうなるかはマクロ安定化政策や中長期的な経済の動向を踏まえて、市場が予測する。目標を決めても、具体的な手段がなければ、市場は、実現しないと思ってしまうだけだ。
--当面の循環的な問題の解決には何が有効ですか。
財政政策が有効だが、それにはコストが伴う。日本の財政状態は厳しく、債務残高があまりに大きいので、将来の財政の持続可能性が脅かされれば、国債暴落につながるリスクがある。需給ギャップをすべて埋める規模の財政出動は無理だ。コストを勘案し、景気がよくなったら、迅速に撤退する必要がある。コストを払ってまでデフレを脱却すべきかどうかも議論となりうる。
--民主党の財政政策は選挙の票目当てのバラまきに見えます。
民主党の主要な財政政策は当初、それぞれに合理性があったが、その合理性の追求が生煮えのまま、バラまき的な色彩の強いものに変わっていった。
子ども手当は扶養控除から現金支給に切り替えることで、高所得者だけでなく非課税の低所得者をも支援する「所得再分配」という政策目的があった。財源として、配偶者控除の廃止が検討されたのも、女性の社会進出に対するバリアを取り除く改革という側面があった。しかし、財源確保のための税制改革の議論が切り離されたので、当初の理念が失われた。