潜在成長率の低下が問題、規制緩和で民間活性化を--岩本康志・東京大学大学院経済学研究科教授《デフレ完全解明・インタビュー第8回(全12回)》

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農家の戸別所得補償も、本来、関税の撤廃による貿易自由化とセットで組まれるべき政策だった。消費者の利益になる貿易自由化を行い、一方で生じる生産者の不利益を最小限の費用で補償するのが目的で、TPPへの参加は当然の帰結だったはずが、「検討する」にとどめた。日本の農業をどうするのか、基本的な理念が欠落している。

法人税減税の議論にも大きな見落としがある。法人課税の減税は必要だが、国税よりも地方の法人課税の減税をまず、優先させるべきだ。法人課税は時間的に偏在して、空間的に偏在している。本社が東京に集中しており、按分も不十分なので、税収は東京に集中している。さらに、法人税収は景気の動向に左右される。地方の支出は地元住民の生活に密着したものが多いので、景気に影響されない財源にするべきだ。法人課税の減税は地方から行い、たとえば消費税の税源を移譲するなど、国が安定した税源と交換するほうがいい。

また、今回、法人税率の引き下げによる減収分を埋めるために、投資減税の縮小が入っている。これはむしろ、企業の海外流出を加速するおそれがあり、インセンティブのうえでは逆効果だ。法人税率を引き下げたところで、すでにある拠点は動かないが、投資減税の縮小となると新たな拠点は海外につくる可能性が高まるからだ。新たな投資を日本で確保するのが当面の目的なら、むしろ投資減税の拡大のほうが望ましい。

--潜在成長率とインフレ期待の低下、どちらがより問題ですか。

潜在成長率が低いことが問題だ。潜在成長率が下がると、中立金利が下がり、ゼロ金利との差が確保できず、ますます物価のコントロールが難しくなる。人口成長が期待できないので、技術進歩をしっかりと高めて、ある程度の経済成長率を確保する必要がある。

--潜在成長率を高めるための政策では何が考えられますか。

民間の経済を活発化するには規制緩和による競争政策が基本になる。

リーマンショックの前には円安と米国のバブルで日本企業のハイエンドの商品が売れていた。だが、新興国の企業にコスト競争力で負けているので、ハイエンドの分野に追いやられた面もあり、グローバルな景気循環に対して脆弱になっている。

リスクテイクをする態度が失われてきていることが問題だが、これを政策によって動かすことは難しい。間接的な政策ではあるが、個人レベルでリスクを取りやすいように、セーフティネットを整備することは必要だ。スムーズな転職が可能な柔軟な雇用環境をつくり、所得補償も整備して、人材の流動性を高める必要がある。

 主要先進国で唯一、デフレに陥っている日本。もう10年以上、抜け出せないままだ。物価が下がるだけでなく、経済全体が縮み志向となり、賃金・雇用も低迷が続く。どうしたらこの「迷宮」からはい出し、不景気風を吹っ飛ばせるのか。「大逆転」の処方箋を探る。 お求めはこちら(Amazon)

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