3月下旬、那覇空港のタクシー乗り場は少しずつだが確かに活気が戻りつつあった。まん延防止等重点措置が解除され、卒業旅行で沖縄を訪れたであろう大学生の集団などが目につく。
乗り場で待機するタクシーは6、7台ほどだが、次々と客を拾い流れていく。40代という沖縄のドライバーとしてはかなり若い部類に入る金城さん(仮名)は、筆者を乗せると声を上げた。
「沖縄ではタクシー運転手の感染も相次ぎましたから。売り上げが立たなすぎて、うつになって辞めていったドライバーもたくさんいます。でも、交通インフラが整備されていない沖縄ではタクシーは市民の足でもあるんです。だから料金も安いけど、長距離がほとんどない。
僕はかなり売るほうでしたけど、手取りでいうと20万円ほどです。でも、この地で生まれ育った人間からすると、タクシードライバーはそんなに悪い仕事ではないんですよ」
時間にすると10分ほどだろうか。目的地である松山のホテルに到着すると、メーターは1100円を差していた。金城さんは深々と頭を下げ、「これくらい人が少ない沖縄は旅行者の方にとってはいいですよ」と少し投げやりな様子で筆者を見送った。
コロナ前との落差があまりに激しい
昨年12月にオミクロン株のクラスターがアメリカ軍基地で発生。以降、感染者増とともにタクシー業界の売り上げは惨憺たるものとなっていた。しかし、3月に入りそんな数字がわずかながら戻ってきたと話すドライバーが多かった。県内大手のタクシー会社に勤める、この道30年のベテランドライバーである島袋さん(仮名・60代)はこう話す。
「本土と沖縄では勝手が違うわけ。今は(1日)2万円も売ったらいいほうで、3万円なんて夢みたい数字やね。初乗り570円、ドライバーの歩合も50%を切るから当然稼げない。
県民性的にも実はコロナ対策はかなり力入れてやっていて、全然人が動かんかった。それがようやく3月に入って人が動き出したかな。それでもコロナ前が中国からの旅行者が多くてバブルやったから、落差はあまりに激しいよ」
島袋さんがいうように料金の安さ、接客、交通インフラとしての機能性、観光との兼ね合いなど沖縄のタクシー業界はかなり独自性を感じさせる。そして、沖縄ならではの問題も少なくない。現地取材から見えてきた、沖縄のリアルをひもといていく。
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