意外と少ない観光客利用「沖縄タクシー」独特実態 ラフな私服で悠々自適なドライバーも多い

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前出の沖東交通グループも同様に強い危機感を感じているという。とくに深刻なのは県内全般のDX化の遅れと、高齢化する乗務員の確保だと幸頭さんは指摘する。

「電子決済やアプリ配車についても、まだまだ本土の水準にはほど遠いです。しっかりとしたHPを持っている社も限定的で、DX化は沖縄のタクシー業界が抱える課題でもある。コロナでアプリの売り上げが伸びたことで、アプリを導入しているという理由でウチに転職してきたドライバーも多いですよ。

ただし、DX化を推奨しても『利用方法がわからない』と高齢の乗務員の指導方法に困っている現状もある。慢性的な人手不足の解決も手を入れていかなければいけません。弊社でも保育所の設立や、福利厚生の充実など整備していますが、どれも要素にはなっても決め手とまではいかない。現状保有車両に対して、人が足りておらず、乗客の需要と供給のバランスも成り立っていません」

興味深いドライバーと施設の提携

沖縄本島滞在中に20回ほどタクシーを利用した。その中で個人的に最も興味深かったのが、ドライバーと施設の“提携”だった。例えば個別でホテルなどの宿泊施設と契約しているドライバーもいれば、飲食店や飲み屋から紹介料を貰うことも時にあるという。海外でタクシーを利用すれば決して珍しいことではないが、日本だとあまりなじみがない光景もある。

国際通りで拾ったドライバーに、「沖縄らしい面白い飲み屋に連れて行ってほしい」とリクエストした。すると若狭地区にほど近い、あるスナックへと導かれた。カウンターにママと女性が2人のこじんまりした店で説明を聞くと、飲み放題5000円ポッキリだという。

ボッタくりに合うことも覚悟したが、取材と腹をくくり暖簾をくぐる。しかし、結果的には2時間の利用で会計は5000円ちょうどの優良店だった。むしろ、沖縄ならではの話を肴に泡盛を飲む、という非常に楽しい時間にもなった。酒が進み打ち解けた頃にママに運転手さんにいくらバックを支払っているのかを尋ねると、こんなことを明かしてくれた。

「あまり大きな声で言えないけど、1人紹介してもらうにつき、売り上げの中からある程度のパーセントを払っていますよ。そういう飲み屋もこのあたりにはけっこうある。店も苦しいけど、タクシーも苦しいでしょ。だからこうやって助け合っていかないとやっていけないのよ。だからドライバーをあまり悪いふうに思わないであげてほしい」

もし支払いが高額であれば話は異なったが、ママの提言のように不思議とドライバーに対して嫌な感情はわいてこなかった。

時にルーズでゆったりと、本土にはない独特の緩さが沖縄のタクシーには色濃く残っている。そして、利用のしやすさという点では、大都市圏ともそう大差ないと感じさせた。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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