映画『コーダ あいのうた』が、アカデミー賞作品賞を受賞した。確かに圧倒的な出来で、とりわけ音楽の使い方や選曲がすばらしいと思った。
音楽の魅力を増幅したのは、映画館(筆者はシネコンで観た)の高音質大音量の音響装置だ。そもそも『コーダ』はApple TV+によって配給される配信系の作品なのだが、日本国内では映画館で観られたのがラッキーだと思った。
また、映画『SING/シング:ネクストステージ』も好調。興行通信社が発表する「今週の映画ランキング」(3月26~27日版)では、堂々の首位に立っている。
私は日本語吹替版を観たのだが、ポーシャというわがまま娘の声優を担当したアイナ・ジ・エンドの歌が抜群で、字幕版ではなく吹替版を観てよかったと思ったものだ。
2作に共通するのは「音楽(系)映画」ということ。これら以外にも、今年に入って『ウエスト・サイド・ストーリー』やビートルズ『ゲット・バック』の劇場版が盛り上がり、昨年は『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』や『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』などが話題を呼んだ。
私はこれらの「音楽映画」、つまり「聴く映画」のブームの背景に、「“高音質大音量”を映画館で満喫したい!」という潜在需要の存在があると考えている。今回は、そのあたりを具体的に説明していきたい。
スマホの普及で変わったこと
「高音質大音量」需要への背景として、まずはわれわれが「圧縮音源」に慣れ親しみすぎたことがあると思う。
現代は、大げさに言えば「史上もっとも長い時間、人々がイヤホンを着けている時代」を迎えている。ウォークマンによって80年代前半に伸長した「イヤホン(ヘッドホン)着用時間」は、スマートフォンの普及で、さらに大きく伸長した。
ポイントは、スマホで聴かれている音源は、ほとんどの場合、圧縮音源だということだ。つまり、われわれが日がな一日聴いているあの音は、CDよりも劣化した音質なのである。具体的には「MP3」や「AAC」などの形式で、データサイズが原音の10分の1ほどになる分、音質も劣化する。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら