「ゼレンスキー氏のスピーチ」は、超一流の典型だ 日本人にいったい何を話し、訴えかけるのか

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最後、ゼレンスキー大統領のスピーチ戦略、3つ目の柱が「交渉の手段としてのスピーチ」だということです。

【3】交渉の手段としてのスピーチ

ゼレンスキー大統領のスピーチのすごみは、「単なる情緒的アピール」を繰り返し、感情を揺り動かして終わり、ではない点です。日本のスピーチにありがちな「なにとぞ、理解をお願いします」ではなく、すべてに具体的な要望(Call to action)を入れ、実際に人や国家に行動を促しています。

例えば、「ウクライナ上空の飛行禁止区域の設定」や「企業のロシアからの撤退」「ロシアの政治家への制裁」といった具体的なアクションを入れ、協力を訴えるのです。

「交渉の王道テクニック」
★自分自身の求めるものを強く主張する
★合理的な説明をする
★倫理的に信頼感を得るように行動する
★共感を作るために、相手のことをよく知り、情報をやりとりする
★オプションを提示する

彼のスピーチはまさに、「ハーバードネゴシエーションローレビュー」の記事にある上記の「交渉の王道テクニック」を縦横無尽に詰め込んだものと言えます。

「極めて論理的・情緒的なメッセージとデリバリー」によって、聞き手の「心」と「体」を動かす極上のスピーチに仕上げているのです。

日本国民に何を訴えるか

まさに、命がけで渾身のスピーチ外交を繰り広げるゼレンスキー大統領。

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この極限の状況下で、これだけの歴史的洞察を織り込み、人の心のひだに潜り込むスピーチに勝負をかけています。

日本の国民に、はたして、彼は何を訴えるのか――。

これまでの各国向けのスピーチから推量すれば、

・子どもの被害など悲惨な戦況を克明に描写し、同じことが日本で起きたらと言う想像力をかき立てる
・日本人がこれまで経験した悲劇を取り上げ、ウクライナの現状を想起させる
・日本人が大切にする価値観を言及する
・日本の歴史や文化を褒めたたえる
・個人名を挙げて、感謝の意を述べる
・具体的に日本人、国として取ってほしいアクションを提示する

と言った内容が考えられるでしょう。

その声に耳を傾けながら、ぜひ、武器以上の力を持つ「言葉の大切さ」を感じ取っていただきたいと思います。

岡本 純子 コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

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おかもと じゅんこ / Junko Okamoto

「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。

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