少年性を忘れずに生きていく 美術家・横尾忠則氏④

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よこお・ただのり 美術家。1936年兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館、アムステルダム美術館、カルティエ現代美術財団など内外で個展を開催。毎日芸術賞、紫綬褒章、日本文化デザイン大賞など受賞多数。小説『ぶるうらんど』では泉鏡花文学賞を受賞。

芸術の核はインファンテリズムだと思っています。日本語に訳せば幼児性、少年性といったところでしょうか。そういうものが創作には必要です。芸術は、いつも子どもっぽく遊べることが大事なのです。

子どもの遊びは目的も手段もなく今やっていること自体が目的になっています。ところが大人は、大義名分を立て、何かのために何かをします。すると、やっていることが手段になります。そして目的は、はるかかなたにあるということになります。それではいいものは作れません。

僕は10代で人格が形成されると思っています。20年足らずの経験が人間のマザーコンピュータになるのです。マザーコンピュータは誰もが持っていますが、活用せずに眠らせている人がほとんどです。しかし物を作る場合、いや、生きていくうえで、子どもの頃の感覚はすごく大事だと思います。嫌いなことはしない、好きなことしかしない、そういう感覚を大切にすべきなのです。

自分が生きやすい生き方をしていくことが大事

今の社会でそれをやったら、ひどい目に遭うといわれる。しかしそれは、好きなことをしないで、嫌なことばかりする組織の中にいるからそう思ってしまうだけです。そういう組織、会社だったら辞めればいい。

魅力のある人は、子どもっぽい人が多い。天才画家ピカソはとても子どもっぽかった。子どもの精神で女性を追いかけてばかりいた。

一方、ダリは子どもっぽさが少なくて、作品がいま一つ面白くない。想像力はすごいのですが、描かなくてもいいところまで全部描いてしまう。そうすると見る側が想像できないのです。わかりやすくて面白くないのです。その点、セザンヌの絵は難しくてわかりにくい。ヴィクトワール山の絵なんて、1年ぐらいかけて描いても、塗り残しがいっぱいあって、どれも未完成。そうすると見る側に気持ちのいいものを与えるわけです。

未完成だけれども、これ以上描けないで筆をおくというのは、僕にもあります。たいていは面倒くさいと思って筆をおくのですが、その線を越えて描き足すと、とんでもなくつまらない絵になる場合があります。

これは普通の仕事でもいえると思います。面倒くさいと思う感覚を大切に、明日やっていい仕事は明日やればいいのです。遊びの上手な人は仕事を他人に任せ、本人は好き勝手にやっている。そういう人は最初評価されないかもしれませんが、大きな仕事を成し遂げるかもしれません。遊びが大切なのです。自分の内なる声に従って、自分が生きやすい生き方をしていくことが大事です。

週刊東洋経済編集部
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