問題に直面したら「現場主義」で解決 アサヒグループホールディングス相談役・福地茂雄氏③

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ふくち・しげお 1934年生まれ。57年長崎大学経済学部卒、アサヒビール入社。99年社長、2002年会長。08年から3年間NHK会長を務める。11年からアサヒグループホールディングス相談役。新国立劇場理事長、東京芸術劇場館長も務める。

好きな言葉に「心は形を求め、形は心を進める」というものがあります。仏教の有名な教えのようで、電車通勤をしていたとき地下鉄の駅に掲示されていた仏壇店の広告看板で知りました。通勤で毎日眺めているうちに、いつしか心に残る言葉になっていました。

 父は熱心な日蓮宗の信者で、お経を上げることにかけては、プロであるお坊さんより上手なほどでした。一方、母が仏壇の前でお経を上げている姿を見たことはありません。ですが毎日欠かさず午前4時前にお供えをしていました。先祖を大切に思う気持ち、信心の気持ちは父母ともに変わりはなく、父は「形」から入り、母は「心」から入る。表裏一体だったわけです。

NHK会長に就く直前、記者によるインサイダー取引事件が明らかになり、NHKへの信頼は地に落ちていました。コンプライアンス(法令順守)の体制確立と職員の意識改革が喫緊の課題でした。

「~と聞いていますよ」じゃ説得力がありません

倫理委員会や倫理規定などの形を整えても、心に落とし込まないかぎり何も解決しません。意識改革のためにはトップが職員にじかに会って、コンプライアンスの大切さ、重要さを説く必要があると判断し、各地の放送局や本部の部局を回りました。

 そのとき持ち歩いていたのは、米コンサルタント会社、アーサーアンダーセンについて書かれた本『アンダーセン 発展の秘密』と、その5年後に出版された『名門アーサーアンダーセン消滅の軌跡』です。

不祥事を告発する1通の社内メールによって名門企業が消滅してしまった実例を基に、コンプライアンスの大切さを説明しました。同じ言葉を何度も繰り返す日々にしんどい思いもしましたが、職員の意識が徐々に変化していくのがわかりました。

どのポストにあっても、私は疑問があるとすぐに現場に出掛け、自分で確認するようにしています。NHKでは、解説委員室でどんな議論がなされているのか、選挙の開票速報に欠かせない出口調査はどうやって行っているのか。知らないことがあると現場を訪ね、自分で確認するようにしていました。

これは職員たちを信用している、していないの問題ではなく、自身の目で見て、現状のやり方でいいのかどうかを自分なりに判断したいからです。現場主義で行動して自分なりの見解を持っていれば、何を言われようと確信を持って答えることができます。「~と聞いていますよ」じゃ説得力がありませんからね。

週刊東洋経済編集部
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